【 一般社団法人 日本勤労青少年団体協議会 会長賞 】

経験をチカラに
埼玉県  早川とみ子 64歳


 ようこそ。まずは社会人の仲間入りをした皆さんに贈ります。待っていましたよ。夢や希望、不安でいっぱいの皆さんと向き合える日を。
 先輩風を吹かすのを許して欲しいのですが人生の経験値なら、ちょっと、自信があります。社会人になって四十四年。はっきりと覚えているだけでも五度転職しました。六度目の転職はついさっき面接を終えたところ。これまでの転職の理由は様々。夫の転勤。子育て。両親の介護。最後は自分が車椅子生活になって、というのが少し切ないのですが。でもそれ以上に思うのです。「働き続けてよかった」と。
 二十代の頃はとにかく不安ばかりでした。せっかく商社に入ったものの、最初はとにかく覚えることで精一杯。戦力とは言い難く、やっと仕事を覚えた頃に結婚・出産。その後はキャリアを生かせる仕事より、子どもを預けられる仕事を探しました。仕事と育児。まさに二刀流で二倍速。毎日が職場と保育園の往復でめまぐるしく時が流れる。その中でも『介護』の仕事はターニングポイントでした。『きつい・汚い・危険』と呼ばれる介護。実際ご利用者をおぶってぎっくり腰になり、うまく排泄介助ができず日々汚物まみれ。インフルエンザの集団感染では最後に自分まで。だけど不思議と「やめたいな」という気持ちにはなりませんでした。多分それは自分が経験を重ねたというのが大きいように思います。ここで伝えておきたいのは感覚の違いです。新社会人として働いた時。主婦となって働いた時。母親となって働いた時。同じ仕事でも感じるものがちがいます。絶対に、ちがうのです。オムツを替えた時の「ありがとう」や、亡くなる間際の「あなたがいてくれて良かったよ」の声。経験を重ねるごとに胸にじんわり沁みてくる。そう。『きつい・汚い・危険』と言われる介護は、二十年の時を経て、『感謝、感動』に変わったのです。
 そんな人生経験から言わせてほしいのです。百人いれば百通りの輝きがあると。学校のテストではたった一つの正解を求めるけれど、人生はそうではありません。人生のコースもゴールも人それぞれ。他人と比べる必要なんてないのです。
 
 ただ忘れないでほしいのです。人生というのは「正解」を探す旅ではなく、選んだ道を正解にすることです。どのポジションにいても努力の汗で自分を磨き続けること。そのためには日頃からアンテナを高くしておく必要があります。先輩のアドバイスにはあなたを活かすヒントやチャンスがいっぱい隠れています。
 
 保証します。まだまだ皆さんには思っている以上にチャンスがあります。さっき百人いれば百通りの輝きがある、と言いましたが、たった一人の人間の中でもその輝きはどんどん変化します。二十代では見えなかった景色が、三十代では見えるようになる。四十代では聞こえなかった声が、五十代ではちゃんと聞こえるようになる。経験とはそういうもの。だから人生においては『○○し続ける』の『続ける』の部分を大切にしてほしいのです。それは『学び続ける』でもいいし、『聞き続ける』でもいい。『もがき続ける』だって。とにかく『続ける』ことで見える世界が、きっと、あります。
 私はとにかく働き続けました。たとえ短い時間でも、ゼロからのスタートだとしても。その中で思いがけない出会いがあり、発見があり、時に失敗があり、成長がありました。今は車椅子でも。いや、車椅子だからこそできる仕事がしたいと思うのです。ユニバーサルデザインアドバイザー。そう思えるのも経験のおかげ。傷ついたり、もがき続けた経験のおかげです。
 
 皆さん、これから三十代、四十代。どんな未来を描きますか。正解はありません。遠慮も要りません。どうかあなたの色で、あなた自身の手で、彩り豊かな人生を描いて下さい。

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