【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事探しを通じて気づいたこと】
教員の言葉
東京都  木 南 七 海  22歳

「今年は売り手市場です」

この言葉を一体何度聞いただろうか。

就職活動に対する姿勢も、スタンスも人それぞれのはずなのに、それをマルッと一纏めにする世間。

昨年の秋。夏に脱いでしまう予定だったスーツに身を包み、私は涙を堪えていた。やりたいことは、明確だった。熱意だってある。ただ如何せん、やりたいことに気付くのか遅かった。

就職活動は、周囲と同じくらいに始めていた。雪の日のインターン。そこで私は、自分が広告の企画者・演出者になりたいと気づいてしまった。

その日から、私の長い長い就職活動が始まった。

まず、そのような職種の採用をしている企業を探した。私の悪い所は、こうだと思ったら突っ走ってしまう所と、融通が効かなくなってしまうところだ。今回も然り。

採用と同時にクリエイターと呼ばれる職種に就くことができる企業ばかりを漁った。

ただ、私よりもずっと前にそれを志した人達がそこにはいた。専門学校や大学の学部・学科で既に知識と技術を得ている者。広告クリエイティブの教室に通っている者。実際に作り上げ、それを打ち出している者。

敵わないかもしれない。

しかし、泣き言を言っている暇などなかった。

広告の分野に通じている大学の教員を訪ね、本を読み、実際に手を動かし、企画書や絵コンテと呼ばれる広告案を書いた。もともと考え、創造することに興味があったからなのか、書類や企画の課題は徐々に通過するようになった。しかし、自分よりも前から努力し続けてきた強者達に埋もれ、最後までたどり着くことはなかった。


もう、夢は叶わないのか。

そう思うと同時に、明らかに黒スーツの通行人が少なくなった秋の街を見て、私はひどく恥ずかしいことをしているような気分になった。

次々に内定が出る友人達。

気を遣われるという優しさがひどく残酷に思えた時、私は自分の中の卑屈さが嫌になった。

やりたいことを諦めてしまおうか。

厳しい父の圧力もあり、私に就職浪人をするという選択肢はなかった。


なりたいものになれないのなら、就職をする意味とは何なのか。

そんな風に考えるようになっていった。

ある日大学の教員に就職活動の進行具合について尋ねられた。何も答えられずにいると、彼は一つの山を描いてみせたのだ。

「この山の頂上に行くにはどうすればいい?」

突然の問いに困惑しながら「下から登ります」と答えた。

すると教員は山の下から上に向かって矢印を書き足した。

「確かに、普通なら山道から登る。ただ、もしこの山道が思ったより急だとか、岩で塞がれているとしたら」

そう言うと、教員はさらにその山の隣に別の山を描いた。

「隣の山の頂上や中腹から、この山に移ればいい。それに、山道を歩く以外にも、飛行機やロープウェイで頂上に行けるかもしれない」

教員はペンを置いて、私に向き直った。

「この山の頂上が、君のなりたい姿・やりたい職だとする。でも別に、下から地道に歩くことだけがそこに行き着く道じゃない。他の山からも、他の企業や職種からも、目指すことはできる。仕事は全て繋がっているから。広告業界の、クリエイター以外の職種でも、自分の頑張り次第ではクリエイターの仕事を任される。でもまずは、目指す山に近い山に、つまりスタートラインに立たないといけない。そういう気持ちで、もう少し視野を広げて就職活動をしてみたらどうだ」


私は今、広告関係の会社で新入社員として働いている。職種は、クリエイターではない。教員の話を聞いて、私は就職活動を見直した。視野を広げ、広告に関係のある企業を端から受けた。

その結果、一つの山のスタート地点に立つことができたのだ。

私の夢は、いつか描いた山の頂上に登ること。

就職活動で落ちてしまった広告代理店のクリエイターになることだ。そのために、学ぶことは多い。今の会社で、やれることはやっていく。

私の夢は、ここから、これからだ。

戻る