【 入   選 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
志ある仕事
筑波大学附属駒場高校  木 場 悠 人  17歳

知らず知らずのうちに偏見を持ってしまうことは人間、よくある。

僕は、仕事について様々な偏見を持っていた。トイレ掃除は地球上で最悪の仕事だ。大企業は金に汚い。金持ちは嫌な奴が多い。

今思えばこうした偏見は主に童話やテレビから来るものなのだが、小さい僕にとっては世界なんてそんなものだ、という認識だった。

そうした僕の世界観を打ち砕いてくれたのが、日経ストックリーグでの活動だ。

日経ストックリーグとは、中高生がチームを組み、1年を通して経済に関して学習を行い、最終的にはレポートを提出する全国区の大会だ。この大会を通じて、僕はいわゆる一流企業の方々のお話を伺う貴重な機会を何度も頂いた。15歳の子供に対して、どの企業も親切に自社の取り組みについて語ってくれた。

活動開始から約1年後、僕らが提出したレポートの骨子は、従業員を大事にする企業と独創性を持つ企業は現状でも良い結果を残しており、今後も発展の可能性が大きい、というものだった。この結果は、僕の持っていた偏見とはまるで異なったものだった。

利益率の高い会社というと、経費を切り詰めたり従業員をこき使ったりしているイメージを持つ人が多いと思う。要は、効率のいい経営だ。実際、世間では大企業のブラックな就労事情が次々取沙汰されているし、リストラの話が持ち上がることも多い。

しかし、実際にインタビューし各社の業績を分析してみた結果は、そうした予想とはかけ離れている。今日、利潤の本質はそうした「非人間的な」領域ではなく、フラットな組織から出る斬新な発想や社内の男女平等、先端技術への惜しみない投資、最終的に自社を通じて世界を良くしたいという意識、といった、「人間的な」領域だったのだ。例えば、レポートで高評価した資生堂では社内の男女間平等や福利厚生が会社の発展の礎となっており、東レに対しては、先端技術の独創性や社会貢献の意識がこれから利潤の源となるだろう、と予測した。

社会とは皮肉なもので、案外金持ちが清貧な心を持ち、貧乏人が欲にまみれていたりする。僕の持っていたステレオタイプは、日本に名だたる大企業にインタビューする中で消えていった。彼らの持つ「世界を良くしたい」という意思が本物であることは、話せばすぐにわかることだった。

志高くあることが、自分の利益になり、最終的に世界全体を良くする。社会の真理は、意外なほどにすがすがしい。グーグルやアップルといった世界的大企業も、根底には創業者たちの熱い思いが流れている。

それまで僕には定まった将来の夢というものはなかったのだが、ストックリーグを通じ、高い志を持ち、その実現に向けて働きたいという思いを常に抱くようになった。近年、仕事の目的を見失っている人が多いように思う。とりあえず就職し、とりあえず退職する。そこに志はあるのだろうか。結局のところ、職は手段に過ぎない。何のために働くのか。家族のためなのか、名誉のためなのか、はたまた世界のためなのか。

志こそが、仕事において最も大事なのではないだろうか?

いつか、会社を立ち上げてみたい。最近の僕のひそかな願いだ。進学校に通っているということは、人よりも多くのチャンスに恵まれているということ。分野すら決めていないが、既存のものにテクノロジーの力を加算して、世界をひっくり返したい。ウーバーやネットフリックスの起こした旋風を僕も起こしてみたい、という風に思っている。

ただ、再度になるが、職業はあくまでも手段だ。もしかしたら、将来の僕は想像もつかないような職についているのかもしれない。それこそトイレ掃除のような。起業したところで、スタートアップに簡単に成功できるほど世の中は甘くないことも分かっている。

このような予測とは大違いな将来であっても、ストックリーグで接した大企業の方々の持っていた、あの熱い志だけはずっと持ち続けたい。そして、いつの日かその志を果たしたい。

それが、僕の仕事を通じてかなえたい夢であり、今後の抱負だ。

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