【 入   選 】

【テーマ:仕事を通じて、かなえたい夢】
“なんにもない” 街にワクワクを
山形県  佐 藤 真 穂  20歳

私の故郷はなんにもない。

大学生になってから地元を離れ、あなたの出身は? と聞かれるたびに少しだけ困ってしまう。なぜなら次に続く質問はどんなところ? だからだ。問いに対して友人たちは普通だよ、とか言いながら楽しそうに地元の良さを話す。ずっと憧れていた都会の生活を当たり前に暮らしてきた人々が羨ましくて仕方なかった。


この前地元に帰ったが、よくここで18年間暮らしていたなと正直思った。

通学路に寄り道できるカフェなんてものはなく、シャッター商店街をただ通り過ぎていく。高校生活は強制的に部活に入らなくてはいけなかったし、アルバイトも禁止だったので近くに店がある必要性はなかったものの、やっぱり買い食いとかしたかった。


そんな「地元コンプレックス」のようなものがある私だが、地元が嫌いなわけではない。私は高校3年間、市のボランティアサークルに入っていた。理由は暇だったから。遊びに行くにはお金がかかる。当時の私にはお金を稼ぐ方法がなかった。たったそれだけのことだった。けれどこの選択が今後の人生に大きく関わってくることになるのだった。


主なボランティアの内容は市のイベント運営のお手伝い。実際に動いてみると街を活性化させようと頑張っている大人たちがたくさんいた。その中でも特別楽しかったのは「kitokito マルシェ」という市場イベントだ。作る人と買う人が出合い、野菜や農業、そして食べることについて話し、お互いに理解することができる場として話題となり、現在では県外から訪れる人もかなり増えた。なぜ私がこのイベントが好きなのかというと、お客さんより運営の大人たちが楽しんでいるからだ。それは学園祭の準備期間に遅くまで学校に残っているわくわくと似ている。そんな大人たちに混ざって木の椅子を一から作ってみたり、ハンモックでお昼寝してみたり…。あの場所に行くたびに童心に戻ることができる、不思議な時間であった。こんな近くにワクワクがあったなんて気づかなかった。次第に今度は私が子供たちに “何もない” から始まる面白さを知ってほしいと思うようになった。


数年後、小さなこの夢が叶うことになる。それは大学2年の秋のことであった。地元の駅前の広場で“まちなか秘密基地” という自主イベントをさせてもらえることになった。ターゲットは小学生。主に段ボールを使って7人ほど入ることのできる大きな秘密基地の作成を行った。参加人数は予想を大きく上回り、構想を練り直したほど大盛況であった。今までお世話になったボランティアメンバーや、kitokito マルシェスタッフの大人たちにもかなり助けられ総勢60名で5つの秘密基地を作ることができた。


この企画を行ったことで、この街には遊べる場が求められていることを再認識した。今回は一度きりの企画であったが、将来はこの街にワクワクを与えられるような存在になりたい。私に kitokito マルシェという場を教えてくれた大人たちのように。かなり漠然とした目標だが、就職して身に着けたスキルを使って、子どもたちに喜んでもらえる仕組みを地元に作る。それが今の私の夢だ。

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