【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
私の職業人生から見えて来たもの
岩手県  横 手 裕美子  64歳

私は大学を卒業した後、学生時代のアルバイト先のアパレルの仕事に就いた。だが個人事業主だったので福利厚生もなく2年ほど働いた後、雇用主からのセクハラで仕事を辞めた。その時気付いたのは、自分には学歴はあっても何をしたいという思いが全くなかった事だ。資格を取れば仕事につけると考え、宅地建物取引主任者の資格を得て、不動産会社に雇用された。しかし、その当時の女性の御多分に洩れず結婚退職。それから長い間専業主婦を続けたが、訳あって50歳から働くことになった。今でも専業主婦が50歳から雇用されるのは難しい。その時、自分の人生を振り返る上でカウンセラーの勉強をしていたことが仕事に繋がったと思う。カウンセラーの勉強は、当時自分が抱えていた大きな悩みを話せる場所も人もなかったからだ。女性の様々な悩みに寄り添い支援し一人でも幸せになってほしいと言う一念で勉強に励んだ。それからこの15年程、福祉関係の仕事に携わってきている。


時代が瞬く間に変わっていき、人手不足で海外から労働者を確保しようと言う時代になった。とは言え、なかなか職につけない人がいるのも事実だ。というのも企業には人を育てる社風が薄れ、転職雇用には即戦力を求める時代になったからだ。経験が短く資格もなければ転職するごとに一般的にはレベルが下がっていくとされる。


生活困窮者の相談員をし、現在は生活保護受給者の就労支援員をしている身から今の若者の就労という面に幾つかの課題が見えて来ていると思う。


一つは働く意味の曖昧さ。何のために働くのかという基本に思いが至っていないように感じる時がある。単純なことだが仕事をするのは自分の生活費を自分で賄う必要があるからだ。夢のある若者は応援したいと思う。だが、実際夢を実現するためにどのようなプロセスを踏んでいるのか明確にされていない事が多い。


一方、大学を出たから必ず正規職員になれる時代ではなくなり、日本式の終身雇用制度も崩壊し始めた。新卒学生の3割が3年以内で転職する現実に、私は若者に「したいこととできることは違う」という事を言いたい。転職した人にはまず糊口をしのぐためにできる仕事をしてほしいと思う。自分ができる仕事の中で、生きがいややりがいを見つける事も実際多いと感じる。


また、高校生のうちから自分の個性、自分の特性を意識して仕事の方向性を考えて欲しい。私自身のことを言えば、私は人の役に立つ事、縁の下で支えるのが性に合っていると思っていた。だがその仕事がどんな仕事なのか理解していなかった。事務職とか教師とか全く自分らしくなく大学の学部も決めかねたのだ。今思うと、自分には公務員が向いていたのではないかと思う。今も非常勤ではあるが公務の仕事であり、仕事としてとてもやりがいを感じているのだ。


50歳から社会人になった私は、社会の歪みも感じることが多いが仕事は日々学習と感じることが多く楽しい。だが仕事が楽しくなくても離職する前に考えて欲しい。楽しくないから給料が支払われるのだと言った人がいたが、楽しく感じるかどうかはその人の心構えもあると思う。そこに何のために仕事をするかという基本理念が入ってくるのだ。


社会的に未だに性別役割分業の面も多いが、少しずつ意識が変わってきているのも実感する。女性の中には夫に扶養されながらパート勤めを希望する人もいるが、専業主婦ではなく社会に参画し、自分が働いて支払った社会保険で堂々と老後も生活して欲しいと思う女性が長年専業主婦でいると、働く必要が出た時、就労はなかなか難しいのが現実だ。男女共同参画は男女双方にとってとても都合のいいシステムだと思う。これからは70歳まで働く時代が到来しそうだ。その時にいかに自分の仕事人生を楽しめるか。社会情勢の大きな変革期の中で働くという事をしっかり考えて欲しいと思う。

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