【 奨 励 賞 】

【テーマ:現場からのチャレンジと提言】
周囲を巻き込みながら進むべき
神奈川県  田 中 茂 実  45歳

42歳ではじめて子どもを授かった。私は一人っ子であり、私の両親はフルタイムで働いていたため、幼い頃は、両親不在のまま過ごすことが多く、とても寂しかった。子どもができたら、できる限りそばにいてあげようと思っていた。

そして思いついたのが、育児休業の取得である。会社の担当窓口に問い合わせてみると、私の会社では、育児休業を申請した男性が一人もいない、ということだった。男が育児休業をとるのは不自然なのだろうか、男が育児休業をとると白い目で見られるだろうか。私は不安になり、申請をためらってしまった。

話し合いの末、結局妻が子育てに専念することになった。しかし30代後半という高めの年齢での出産であったからか、産後の体調不良が続き、育児どころか家事もままならない状態になった。

男性の育児休業申請は前例がないゆえにためらわれる。けれども体調不良の妻のためにどうしても子育てを手伝いたい。私の心境を察してくれたのか、会社の上司が、悩んでいる私に在宅勤務を勧めてくれた。週3回を上限とする制度であり、在宅勤務前日に、在宅勤務の仕事内容を上司に報告することが決まりとなっている。許可が得られると、在宅勤務となる。

在宅勤務をし始めた頃は、仕事ばかり、家事ばかり、育児ばかりとバランスのとれない日が続いた。しかし慣れてくると、仕事・家事・育児それぞれにどのくらい時間がかかるのかが、何となくわかるようになった。仕事・家事・育児の時間配分の目安がわかり始めると、仕事をその時間配分内で終わらせようと集中するようになり、仕事が効率的になった。家事・育児のおかげで、仕事を効率よく短時間で終わらせられるようになったのだ。子ども用ベッドのそばで仕事をしていると、幼いわが子と一緒にいられる喜びを感じると同時に、子育ての大変さを痛感した。

ある時上限の週3日を超えて在宅勤務が必要となった。妻の体調がとりわけ悪くなったのだ。有給休暇という手もあったが、これ以上会社に迷惑をかけたくない。このことで会社の上司に相談すると、サテライトオフィスの活用を勧められた。そのサテライトオフィスは家から比較的近く、かつ保育室も整備されているため、子どもを預けながら仕事ができる。しかし私はサテライトオフィスに、子育て中の女性社員たちが活用する場所、というイメージをもっていた。それゆえ男である私が行くのは恥ずかしいと思ったが、事情が事情ゆえに、子どもを連れて向かうことにした。行ってみると、たしかに女性が多いものの、男性もチラホラ見受けられ、子育てする男性がいることに心強さを覚えた。スタッフの対応も慣れており、恥ずかしさはあっという間に吹き飛んだ。

私はこれまで周囲の人たちと「同じように」動くことを旨としてきた。成果や業績をあげるには、協調性が重要であることを経験から学んでいたからだ。しかし男の子育てというチャレンジを通して、周囲の協力があれば、人と「違うように」動いても、成果や業績に貢献できることを学んだ。私は男性育児休業取得者第1号になるべきであったと、今では後悔している。男性の育児休業取得率の低い会社であっても、男性の育児休業に冷ややかであるとは限らない。

何かチャレンジしたいことがある場合は、積極的に周囲の人たちに相談し、彼らの協力や後押しを得るべきである。周囲を巻き込みながらチャレンジに臨めば、会社の諸制度を有効に活用できると思う。育児休業ではなく在宅勤務を選んだ私のように、チャレンジしたいものの、なかなか大胆な一歩を踏み出すことのできないような人は、なおさらである。周囲に相談すれば、様々な解決策が見つかるだけでなく、協力・後押ししてくれる人も現れるはずである。私の場合は、直属の上司の協力・後押しに恵まれた。大きなものであれ小さなものであれ、チャレンジという人と違うことをするときこそ、周囲を巻き込みながら進むべきである。

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