【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
コンビニで見えるお金の表情
長崎県 加 藤 ゆう紀 30歳

私は現在、駅構内のコンビニで働いている。

立地を理由に、千人千色のお客様がご来店する。

ヨーロッパからの一人旅、バックパックを抱えての男性。クルーズ船で来日された中国人一家。日本 各地から出張で来られたビジネスマン。

旅費にお金をかけていたり会社の利益を通じてお金の扱いに慣れているので、店員に対する態度も柔 らかく、丁寧に慌てることなく札を長財布にしまう。

お金に敬意を払っている方を拝見するのは、店員としても一人の人間としても非常に清々しいことだ。

こちらまでより丁寧な接客を心がけようという向上心に繋がる。

一方で、一日8時間も働く中で心が沈む瞬間もある。

地元の若い男女、全員ではないが店員に対する態度はもちろん、購入前の商品や自分で稼いだはずの 大切なお金に対してもぞんざいな扱いをする。

レジカウンターで商品を転がす、誰かとスマートフォンで会話をしながら財布を取り出す。LINE の返信をする。

もちろん、店員の顔など眼中にない。

こちらが誠意を示しても無下にされる。

終いには会計時に万札や小銭を店員に向けて投げる。

罪悪感のない笑い。

私は腹が立つよりも先に、お金とその若者が哀れに思う。

若者も私と同じ人間、社会人。上司に叱られ顧客に気を遣って、魂を削って手にした限りあるお金。苦 労の対価を、いとも簡単に、そして乱雑に扱ってよいものではないはずだ。

血汗の滲んだ万札を軽く扱うのは、自分自身を卑下していると言えるはずだ。

自分で自分の価値を、態度で下げて悲しくならないのだろうか。

それに気付くことはこの先ないのだろうと、若者の血も涙も感じない瞳に、胸が張り裂ける。

彼らだけではない。若くして過程を持った大黒柱に対しても同じ感情を抱く。

自分が使ったお金として、レシートをその場で手放されるときだ。

1円でもお釣りを取り逃さないように細心の注意を払っておきながら、レシートには無関心。

レシートは単なる家計簿の道具でも、紙切れでもない。

いつ、どこで、どのような状況で、何を、いくら使ったのかを記録する、お金だけではなく命の記 録だ。

あなたも、苦心の末に手にしたお金を握り締めているはず。

それなのに、たった一つしかない命を吐き捨てても良いのでしょうか? たかが百円、されど百円。

そのお菓子、アイス、ペットボトル飲料のためにどれだけ苦労されたのですか? 家族の命を食い繋ぐために、数え切れないほどの我慢をされたのではないのですか? どうか、気付いてください。

あなたは、なくてはならないたった一つの命であることを。

他に代わりはなく、あったとしてもあなたの大切な人はそれを求めていません。

あなたに、守るべき大切な人が存在するように。

毎日願います。私の想いが届くように。

制服の袖に腕を通し、商品を売るだけがコンビニの仕事ではありません。

心の痛みと闘いながら笑顔を絶やさないようにするのが、私の大きな仕事の一つです。

「現在」のあなたと「未来」のあなたを重ね見て。

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