【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
天職のつくりかた
東京都 小 香 葉 33歳

働くってなんだろう。2度目の育児休暇中、かつ働き方について夫と議論することが多い自分にふさ わしいテーマに思えた。そもそも勤労は日本国憲法でも義務として課されており、社会人となった以上 「働く」ことは義務でもある。「義務」は広辞苑(第六版)によると、「自己の立場に応じてしなくてはな らないこと、また、してはならないこと」とあり、甘さを感じられない言葉である。辞められない背景 はあったとしても、仕事を最大限楽しむにはどうすればよいのか、研究者として働き、自分の好きなこ とを仕事としている夫を見て考えた。

個人的見解だが、人は「仕事が好きな人」と「義務として仕事をこなす人」に二分されると思う。夫 は前者、私はどちらかというと後者である。就職活動で舌先三寸何を言ったかを正直に棚に上げてしま うと、私は根本的に夫ほど仕事に興味・思い入れなどを持っていない。私の職場は女性も多数活躍して おりかなり恵まれている場所であるにもかかわらず、自分の中でどこか勤労を義務として扱っている部 分がある。一方、私から見ても夫は異常である。同じ検体の同じ遺伝子を懲りもせずに10年近く研究し ているのだ!

義務感にかられるとは言っても、私自身働く中で得たものもやりがいもたくさんあった。商品の最終 的な受け取り手の喜びの声。欧米人との共同作業で得られた気づき。既存の問題を解決するために考える こと、それを社内でプレゼンし、計画が実行されること。どれを取ってみても、やり切った後から振り 返ると良い思い出で、夢中でやっているうちに新たに言語などの能力が身に付き、達成感も大きい。比 べてみると、夫は芽の出ない時代が長く、ようやく論文をどうにか出したところ。ここまで長い年月を かけて、ようよう2本といったところ。私なら、やらない。

だが、不思議なことに彼は楽しそうなのだ!給料も安く、拘束時間も長く、生産性も低いという三大 問題を抱えているにもかかわらず。(それを補わねばならぬ私の立場の文句は省略する。)夫自身が子供 のころ入退院を繰り返した病原体の研究をしており、何年間も飽きもせず同じ遺伝子の話ばかりしてい る。大学の研究者には採算度外視のこの手合いが多い。もう少し世間ずれした人であれば、この職業は 企業に所属した形で選ぶことが多いのではないか。夫自身は興味を持ったことだけを考え、そのまま実 行し、時折苦手な書類作業が入ったとしても転職するつもりなどさらさらなさそうである。何が夫をそ うさせるのか。夫を苦しめた病原体で苦しむ人を減らしたい、とプチ・マザーテレサのようなことを言 う。

一方、夫から見て私は仕事が楽しそうではなく、もっと他のことをやればいいのに!と思ってしまう らしい。確かにフルに楽しんではいないものの、自分の中で山を乗り越え、それなりに達成感も得てい る。天職というものに巡り合っていない、というのが夫の指摘だ。だが、それに向ける気力も探求心も 私は今のところ持ち合わせておらず、現状には満足している。私には家庭内に向ける時間もある今の状 態が「天職」だという気がしている。

自分なりの枠の中で仕事を楽しむ幸せと、枠を外して仕事を楽しむ幸せ。それが私たちの違いだと思 う。人間、必ずしも天職を探し求める必要はない、というのが私の結論である。しかし、やりがいをポ イントで見出せる仕事があれば人生は間違いなくより充実したものになるはず。軸足は仕事においても 良いし、家庭や自分の楽しみに置いても良いだろう。その仕事との関わり方を含めて天職と呼び、必ず しも仕事のやりがいを探しつくさなくても良いのではないだろうか。何事もバランスである。近年話題 になっているワークライフバランスという言葉ひとつを取って考えてみても、軸足をどこに置くかを考 えて、間違いなく人生の重要なファクターの1つである自分の「働き方」を自分の手で決めていくこと が人生を楽しむために必要なことであろう。

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