【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
薬剤師生活9年とこれから
高知県 ホール 理 奈 31歳

今年で私は9年目の薬剤師生活を迎える。今日にいたるまで大きな病気をし、薬剤師の仕事にふっき できないのでは?と落ち込んだこともある。大きな病院の前の忙しい薬局、ドラッグストアも経験して きた。いつもこれでいいのだろうか?これが自分のやりたいことなのか?と自問自答の日々であった。今 も大きな病院の前で働き、勉強・発見の毎日である。贅沢はいってはいけないが今の生活に迷いがない とは言い切れない。

5年前、人間関係に煩わされず自宅で働けそうだから、医療翻訳者になりたいと漠然と思うように なった。理系一筋で生きてきた自分が今から翻訳で生きていけるのか分からなかった。どうしていいかわからないが日本にいてはだめだ、行動しないと!という情熱に駆り立てられ、仕事を辞め、カナダに ワーキングホリデイに行った。若さゆえの勢いで行動してしまった。カナダでは薬局の見学をさせても らえ、自身も医療機関に世話になることもあり、ほかの先進国の医療現場への理解が深まった。翻訳、 通訳の勉強を通じて元日本人医療翻訳者講師や、多言語を操るポーランド人女性翻訳者に出会うことが できた。後者は今でも連絡を取り合うあこがれの翻訳者であり大切な友人である。翻訳の勉強を通じ翻 訳の楽しさ、厳しさを知った。講師からあなたは作家に向いている。翻訳するにしてはいろいろな思い を詰め込みすぎるとよく言われた。そこでまた、自分がどうなりたいのか分からなくなった。カナダの 学生生活を通じて現在の夫とも出会った。彼の母国語は英語なので夫婦の会話は英語である。この数年 間で突然自分の英語のスキルがぐんと上がった。薬剤師としてのブランクが長引くのが怖く、夢は一度 保留して、ビザが切れるタイミングで日本に帰国し薬剤師として再修業をすることにした。今は非常勤 としていろいろな薬局で働き、いろんな薬物治療を学んでいる。夢半ばになってしまったが、カナダへ 行ったことに後悔はない。翻訳の勉強も夫の配偶者ビザ申請で大いに役に立った。どこで仕事をしても 外国人患者さんの対応ができるのは自分しかいなかった。海外からの持参薬の飲み合わせについて確認するときに日本では使わない国際一般名や市販薬を知った。日々新しい発見がある。比例して日本の外 への関心が高まっていく。

今は東南アジアで薬剤師として活躍したいという夢を持っている。医療翻訳者でも通訳者でもない。

EUは薬剤師の資格が連合国内で適応されるようだがASEANではその体制がまだ整っていない。赤 十字病院や国境なき医師団に所属して活躍することも近道であるし、彼らのなすことは大変素晴らしい。ただ、私は、大きな組織に属し、仕事をお膳立てしてもらうのではなく、自分でやりたいことを開拓し たい。インドネシアなど離島が多く、大きな病院に行くのも一苦労というような地域で、地域の人のた めに役立つような薬局を開くのが夢だ。英語も日本語も通じない離島でそこの言葉を学び、薬剤師の資 格を取りたい。現地の伝統的な治療をする薬局の薬剤師にできないことをしてその地に溶け込むことは できないかなと思う。

もちろん時間もお金も努力も必要になる。私のために仕事を辞めて日本に移住してくる夫の気持ちも 考えねばならない。今できることは、日本で常に医療の現場にいること、仕事をしながらインドネシア語 を習得すること。ゆくゆくは現地に留学して薬剤師の資格を取りたい。道のりは遠いが少しずつ、夫婦 で将来について話し合い、仕事と両立しながら前に進みたい。モチベーションを保って生活するために 夢を持つことは悪くないと思う。今誰かに迷惑をかけているわけでもない。家族を大切にしながら、い くつになっても外に目を向けて開けた目標を持つ日本人薬剤師として努力を続けたい。ずっと同じ場所 にいるのは悪いことではない。ただ、小さな世界しか知らないと人間は考え方が偏ると思う。胃の中の 蛙になっていることに気づかない愚か者にはなりたくない。

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