【 入選 】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
ジェンダーらしさを求められる。
大阪府 真 下 シブヤ 25歳

私はスカートを履くのが好きではない。なぜなら私はLGBTsでいう、Bのバイセクシャルであり、 ジェンダーは男性寄りだからである。しかし、入社したての私に女性の先輩社員が言ってきたのは、「どうしてパンツばかりなの?もっとスカートを履きなさい。」という言葉だった。

LGBTsというセクシャリティの在り方が社会に広く認知され、多様な人々が働きやすい環境を企業 でも取り入れる様になってきた現代。しかし、私が就職活動と仕事を始めた中でじわじわと感じたのは、 女性は女性らしい、男性は男性らしい振る舞い方を、企業は仕事に求めているということだった。それ こそ先輩社員の言葉は、オフィスで働く女性の代名詞はスカートスタイルである、といった無意識的な 前提から来たのではないだろうか。私がしおらしい女性であったのならば、次の日からスカートを履い てきたかもしれない。しかし私は馬鹿正直に「スカートは女性らしくて嫌いです。」と答えてしまった。先輩が目を丸くして、「どういうことなの。」と理解できず苦笑いしたときに、失敗したと思った。先輩 にとって、あくまで私は目に見える性別の女性であり、仕事において女性らしく振る舞うことはさも当 然の認識だったのだろう。私は息苦しさを感じて、苦笑いを返すしかなかった。

就職活動をしていた頃まで遡っても、外見のジェンダーらしさを求められていると感じることは多々 あった。とあるソフトウェア会社の最終選考で取締役の方と面接をした際に、「あなたは女性の割にはっ きりものを言いますね。」と言われた。女性の割に、とは何だろうか。女性に人気のエアライン業界の面接では、私以外全員がスカートスタイルで面接に望んでおり、重役の方から「スカートは履かないのか?」と言われた。服装自由、と書かれていたが、なぜそんな確認をされるのか不思議で堪らなかった。面接を通じて、仕事には外見のジェンダーにふさわしい振る舞いを求められるのだと確信した。

どっちつかずの私は、そんな会社にはうまく溶け込めないだろうと一度海外に飛び出した。そして帰 国後、今の会社に入社する。冒頭の先輩のような人もいたものの、実は勤めている会社は元外資系のた め、多様な性の在り方に対し寛容な人が大多数だった。実際、異動先にはLGBTsの人々が既に数人い たため、私は自分がバイセクシャルであるということをカミングアウトしている。しかし私のような恵 まれた環境は稀であり、先輩社員や面接官達のように、まだまだ多様な性の在り方について未知な人が 多いのが現実だ。知識として知っていても、仕事において無意識的に求めるのは、女性は女性の、男性は男性の役割に準じることなのである。正直、当事者の私にとってもそれが悪い側面だけのものだとは 思わないし、体力や印象操作においては適材適所があると思っている。だからこそ最終的に私はスカー トを履くことを許容した。それでも私は周りの人達の寛容と理解のおかげで、自分らしさを失わずに仕 事ができている。

女性はスカートを履くのが当たり前ではない。私のように、性別を演じている人達が思ったよりも身 近に大勢いることを頭の隅に置いておいてほしい。ジェンダーとしての振る舞いを求められず、自分としてありのままで働けるときこそ、私たちは真に充実して仕事に向き合えるのだ。

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