【 奨 励 賞 】

【テーマ:仕事を通じて、こんな夢をかなえたい】
著作を著したい
大阪府 多賀井 雅 巳 53歳

僕は何を隠そう精神障害者である。だから53になるにもかかわらず、恥ずかしながら家庭を持って自 立しておらず、親のすねをかじっている。就労支援B型の弁当屋に勤めてはいるものの、自活できるだ けの収入にはなっておらず、親におんぶにだっこの生活を送っている。親も84と79の高齢で、お父さん の方は特別養護老人ホームに入居しており、認知症が進んでもう僕やお母さんの姿を見ても、どこまで 認識しているのかわからない状態である。お母さんもお母さんで軽度の認知症にかかってきたのか、よ く物忘れをするようだ。ただそれでも「あんたほどよく物忘れヘんわ」と耳の痛い皮肉をよく言われる。

だからお父さん、お母さんが霊山へ旅立つ前になんとかして著作を著し、冥途の土産としてプレゼン トしたい。それが僕の夢である。もちろん欲を言えば、その著作がベストセラーになり、安定した収入 の布石となるに越したことはない。そしていい人と巡り合い、結婚することが出来たら、お父さん、お 母さんも「もう思い残すことはない。頑張れよ」と僕へ声かけて、あの世へ旅立って行くことだろう。

しかし言葉でいうことは簡単だが、現実は厳しい。本を書くとすれば薄い新書本であっても、最低 4万字はいるという。この千六百字のエッセイですらアップアップ言っている僕には、4万字書けとい うのは、まだまだ夢のまた夢である。どうしたらもっと長文を書けれるようになるか?もっと普段から 長文を書けれるよう、手書きのメモをする場合でも、一つのテーマがあればそれについて掘り下げ、展 開して書けるよう練習しなければいけない。それを毎日、いやそれどころではない隙間時間があればい つ何時であっても、文章を書くトレーニングをしなければなるまい。ここ最近になって、精神障害の病 の影響もあり、朝に弱かった自分が、朝4時ごろに目覚めて出勤する8時ごろまで、文章を書く時間に 当てるようになれた。どうしてそんなことが出来るようになったのかその理由を分析するだけの思索力 はないが、日々の努力の積み重ねが、運勢にも助けられて、ここまでの自分の成長を可能にしたのだろ う。だからこの折角積み重ねてきた努力を無下にせず、少しずつでもいいから成長してゆき、遅咲きを狙っている。そういうことならば親もたとえ生前に夢は叶えられなくとも、きっと草葉の陰から見てい て、喜んでくれることと思う。

しかし美辞麗句はならべれても、現実は厳しい。僕もいまだに精神病の症状である幻聴とめまいに心 折れるようになることが少なくはない。また親が早々に無くなるようなことになれば、収入は微々たる ものだし、遺産は早急に困るほど少額ではないが、でも何年も今のような暮らしが出来る保証はない。キ リスト教の聖書の言葉に、「明日の事は思い煩うな。今日一日の苦労は今日一日だけで十分である。」と いう一節がある。一方で格言に、「備えあれば憂いなし」や「転ばぬ先の杖」という教えがある。両方と も真理で、どちらが間違っているということでもないのだろうが、前者のことを思い、焦ることないさ と自分に言い聞かしつつも、母親のよく言う、「計画性を持って生活せえ」ということも忘れてはならな い。

このように考えれば、なんと言っても今の自分に最も必要なものは、文章を書く力である。幸い今は SNSを始め文章が至る所であふれる世の中である。その分競争相手も多く、よほどの実力を持ったも のでなくては、文章を書いて生計を立てるということは出来まい。井の中からその文章があふれる大海 に漕ぎ出でて行くことができるかどうか?

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