【公益財団法人勤労青少年躍進会理事長賞】

【テーマ:仕事をしたり、仕事を探したりして気づいたこと】
トンビからタカ
新潟県  M.H  44歳

高校を自主退学した16歳の冬、仕事をしなくてはいけないとわかっていても、世間は私を受け入れてくれるのか?賃金を貰えるような価値のある人間なのか?とひとり不安を抱え殻に閉じこもっていた。同じ境遇の仲間達といれば現実から目をそらせられた。親に養ってもらい衣食住は心配なかった。

たまに言われる小言も聞き流せる程度だったのでそれ程気にもならなかった。今のようにインターネットで求人探しなんて時代ではなかったので求人誌を購入したり人づてで紹介してもらったり。応募条件の「高卒以上」の言葉がやけに分厚く高い壁に思えて、それだけで動けなくなる。今は大学進学率も高く、高卒は当たり前の風潮だが私のように学歴コンプレックスを抱いている者にしてみれば高卒でも高学歴に匹敵する。

私は忘れっぽいし、先も読めないし気も利かない。コミュニケーション能力も無いし自然な笑顔も作れない。漢字や計算だって簡単なもの程度しか出来ない。高学歴の人は全てパーフェクトにスマートにこなし、周りから羨望の眼差しをそそがれ、公私ともに充実しているんだろうな。と私と真逆の人物像を勝手に妄想したりしていた。

悲観的、ネガティブ、はったり。あの頃の私はそんな言葉がピッタリだった。

そんな私が18歳で妊娠し結婚した。守るものが出来ると人ってこんなに強くなれるんだと驚いた。我が子に恥じない親になりたい。スイッチがオンになりそれからの私は変わった。若く結婚した為生活はギリギリで働かざるをえない。生活の為何だかんだと言っている場合ではない。子供を一人前にして社会に送り出さなければいけない。そんな使命感に燃えていた。何社も応募し、面接し、落され、落胆し、めげずに向かって行くがまた繰り返して。メンタル結構やられました。落される理由は子供が小さいからと言われるが本当は私の学歴が原因なのかなとまたあの頃の思いが蘇ったりして。学歴と貯金はあった方が良い。誰かがそんな事言っていた。本当だと思った。両方無い私って…現実を受け止めなければいけなかった。

それでもようやく採用された職場で私は子供の事、学歴の事を言い訳にしたくなくて猛烈に働いた。そのしわ寄せが子供にいっている事もわかっていたが、背中を見ていてほしいとぶれる事なく前だけを見ていた。

あれから何年経っただろう現在息子は間もなく25歳になり、娘は22歳になった。

そして息子はなんと、私が羨んで止まなかった高学歴コースを歩み医者の卵です。娘はずっと夢見ていた保育士になり充実した毎日を送っている。

今年結婚式を挙げた息子からのメッセージカードには「俺の頑張り屋はあなた譲りです。仕事と子育てを両立した姿を見てきたから。若くてパワフルで元気で親ばかで自慢の母でした。」の言葉が添えられていた。

たいした理由もなく高校を中退し、やる気も努力もしないで、うまく行かないのは世間のせい、親のせい、学校のせいと他責。現実逃避し楽な坂道を転がっていた私がいつの間にかそんな言葉を貰える人間になっていたのだ。

人って変われるものなんだって。若い親はとかく好奇の目で見られがち。子育てと仕事を両立している全てのママへエール送りたい。子供は親の後ろ姿でもきちんと見ているから。

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