【 努力賞 】
【テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
私の原動力
山形県  佐 藤 沙 織  27歳

心臓の鼓動が一気にドクン、ドクンと高鳴る。

「販売を完璧にできたら、焼きを教える。」

店長の言葉に、私は一心不乱に仕事に打ち込んだ。

高校二年の暑い夏、たこ焼き屋でアルバイトを始めた。これが私にとって、初めて働く日となった。

研修初日、分厚いマニュアルを渡され、基本挨拶から始まり、マニュアルを見ながら、メニュー一つ一つのトッピングの盛り付けを覚え、お客様との接客の仕方など基本的なことを学んだ。

ところが、基本を覚えても実際に接客してみると、お店の前にはお客様の長蛇の列。気持ちばかりが焦り、失敗を繰り返す。まだまだお客様を目の前に接客できない自分に悔しさがこみ上げてきて、目がうるっとすることもあった。だが、この悔しさが私の成長に繋がった。一日でも早く覚えたい私は、店長にシフトを増やしてほしいとお願いした。その期待に応え、シフトも増えていき、たくさんのお客様を接客しているうちに、いかに焼きたてを効率良くスムーズにお客様に提供できるか、試行錯誤を繰り返した。回を重ねるごとに自信へと繋がり、心の中に余裕が出てきた。いろいろなお客様に対して、臨機応変に対応し、瞬時に判断して接客することが楽しくてすごく充実していた。

しかし、それとは反対に焼きをやりたいという気持ちが次第に大きくなっていく。その当時は、女性は「販売」、男性は「焼き」というスタイルであったが、私が最初にアルバイトをしたいと思ったきっかけを成し遂げたいと気持ちばかりが強くなっていった。

ついに店長から焼きを教えるといわれた時は、飛び上がるくらい嬉しかったことを今でも覚えている。たこ焼きの鉄板を熱くして、油を穴に均等に入れ、「ネタ入ります」の掛け声で始める。たこ焼きのネタ(生地)を流し込む。たこを一個ずつ入れ、天かす、紅しょうが、ネギの順番で満遍なく入れたら、最後にネタを鉄板ギリギリまで入れる。五分ぐらいして返し始める。千枚通しという二本の針状の返し棒を使って丸くなるように形を整える。これがなかなか上手くいかない。先輩のやり方を目で見て、千枚通しの角度、手のスナップを覚える。何度失敗しただろうか。自分でも嫌になるくらい失敗を繰り返した。それでもなかなか上達しない私に、いつも真剣に厳しく指導してくれた先輩方を見ると、途中で辞めたいとは思わなかった。アドバイスを聞きながら繰り返し焼いているうちに、コツを掴んだ。コツを掴んでからは販売と同様に楽しくて、周りの状況に応じて、販売と焼きをこなした。

店舗はお客様から焼き台がガラス越しに見える造りになるように工夫されている。焼き上がりを待つ間も職人の技を目の前で見ることができ、飽きさせない。たこ焼きが焼ける音と匂いがさらに食欲をそそる。

単純にただ焼いてみたいと思って始めたアルバイト。いつしか、お客様の喜ぶ笑顔が励みになっていった。リピーターの方に「美味しかったよ。また来るね。」と言われ、ただ働くだけが仕事ではないことを学んだ。お客様の笑顔が私の元気の源。そして決して忘れてはいけない、チームワークの良さが仕事を円滑に進めるための仕事力を高めることを。どんな時でも決して諦めない忍耐強さ。そして、もう一つ気付いたことがある。それは、自分が教わったことを人に教えることができて、初めて一人前だということを。息つく暇もないぐらい一生懸命、高い志を持って仕事に専念する。好きだからこそ感じる働く喜びがあり、仕事に情熱をもてるのだろう。

これが私の原動力。

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