【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
働くことではじめて見えてきた魅力
神奈川県  Mensch 42歳

私は大学を卒業後、10年ほどアルバイトや派遣社員をしてきた。30歳を過ぎたあたりから将来に不安を感じはじめ、正社員になろうと職探しをはじめた。希望する職種や会社もあったが、年齢や経験不足で採用にはいたらなかった。それゆえ気の進まない職種を探しはじめ、インターネットカフェの正規採用を選んだ。

私のなかでネットカフェは、サイバー犯罪、ゲーム廃人、ネットカフェ難民といった社会問題のたまり場というイメージが強かった。実際、私が研修を受けた店舗で、サイバー犯罪の容疑で逮捕された利用者がいた。現在私の勤務する店舗にも、オンラインゲームに多くの時間を費やす常連客や、ネカフェ難民と思われる常連客がいる。

私の勤務するネットカフェにはオンラインゲーム専用の席がある。その席を好んで利用する20代くらいの男性がいる。彼はほば毎日来店し、数時間ゲームをしている。通常このような人たちは人との接触を避けたがるのだが、この男性は、人通りの多いところで行き交う人々を見ながらじっとしていることが多い。誰かと話したいのかもしれないと思い私が話しかけると、顔を真っ赤にしながら自分の席に戻ってしまう。

あるとき、いつものように人の行き交う場所でじっとしているその男性を、仕事の終わった私は店内に設置されているダーツに誘った。最初は困惑している様子だったが、やや強引にダーツ場まで連れて行った。真冬で屋内のダーツ場でもやや肌寒く感じたにもかかわらず、彼は汗だくになっていた。聞くと吃音が恥ずかしく、人と接すると汗が止まらなくなってしまうのだという。「この店のスタッフは誰も気にしないので、気軽に声をかけてください。これからもダーツ一緒にやりましょう」と私が言うと、彼は汗だくになりながらも、少し笑顔を見せてくれた。彼は相変わらず人とは接してないが、こちらが話しかけると、軽い笑顔を見せるようになった。顔を真っ赤にして自分の席に戻ることはなくなった。

ネットカフェ難民とは、ネットカフェを宿泊所代わりに使っている人たちのことである。会社では彼らへの支援機構に関する広告をパソコン上に表示させている。これだけだと冷たく感じるので、私は手書きで「支援に関してご不明な点があればお気軽に店員にお問い合わせください」という案内を各席に貼った。

あるとき、日雇いで生計を立てている50代の男性から問い合わせがきた。支援機構に相談したいものの、何をすればよいのか分からないという。手順の最初はインターネット上から支援機構に相談を申し込むことだった。相談予約欄には名前や年齢などの必要事項のほかに、相談内容を書く箇所もあったので、その男性と話し合いながら相談内容を決めていった。初回の相談日が決定し、その日まで時間があったので、その男性と簡単な面接練習のようなものもおこなった。支援を申請したばかりで実際に受けられるのかどうか分からないが、その男性は現状をどうにかできるきっかけがつかめたと喜んでいた。

ネットカフェは社会問題のたまり場といわれており、実際それと関わる人たちがいる。しかし現場では、その社会問題の抑制や解消に取り組んでいるのも事実なのである。声かけをしたり相談に乗ったりといった、上で挙げた私たちの取り組みはとてもささいなものである。しかし私自身は、望まない、気が進まない職業であったネットカフェ店員のこの部分に、魅力を感じている。働くことではじめて見えてきた魅力である。

どんなに望まない職業であっても必ず魅力がある。この魅力は、文字情報だけではなかなか見えてこない。それゆえ職探しのさいは、現場の声にもできるだけ耳を傾けてほしい。ネットカフェなら、是非店員に話しかけてほしい。現場で働いている人たちと話せば、イメージとは違った何かが見え、私のような「嫌だけどこの職を選ぶしか…」といった悲しい職探しの状況は避けられるはずである。

戻る