【 努力賞 】
【 テーマ:働くこと・職探しを通じて学んだこと】
透析と仕事に向き合う日々
東京都  村 田 智 子 36歳

私は現在、フルタイムで働きながら透析治療をしている。6歳から腎臓病を患い、服薬や検査入院以外は健康な人と同じように暮らしてきた。しかし、3年前の夏ごろから腎臓の機能が急激に低下してきたため、おととしの春から透析生活が始まった。

透析と聞いて多くの人が思い浮かべるのは血液透析、病院で体と機械をチューブでつなぎ、血液を浄化している姿だろう。しかし、私がしているのは自分のお腹の中にある腹膜を使う透析だ。お腹に数時間透析液を入れておくと、その間に腹膜を介して体の毒素や老廃物が透析液に移る。この液を尿のかわりに体外に排出する。これを一日に数回繰り返すのが腹膜透析だ。前もって手術でお腹にカテーテルを入れるという負担があるものの、やり方を覚えれば自分一人で治療できるし、自宅や旅行先などでもおこなえるうえ、夜間透析の機器を使えば就寝中でも可能である。

私の場合、朝起きた時にお腹に透析液を入れ、日中はそのままの状態でデスクワークの仕事に就く。帰宅して夕食後に昼間入れていた液を出して、新たな透析液を入れる。夜間は自動で透析液の出し入れをしてくれる機器を使い、朝までに4回液を取りかえる。

月に一度の診察では「上手にコントロールできている」と医師から言ってもらえているが、この透析を何年間も続けていくと腹膜が傷むため、いつかは血液透析や腎臓移植をしなければならなくなる。このような事情もあるせいか、血液透析をしている人に比べると、圧倒的に腹膜透析の人は少ない。それでもなぜ、私はこの治療法を選んだのか。それは仕事と深く関わっている。

 医師から透析開始の話が出た当時は、数年間働いていた勤務先での実績が認められ、パートから正社員になれるという話が出てきたところだった。それまで非正規雇用でしか働いた経験がなく、このチャンスをどうしても逃したくなかった。週3日通院し、一回に3〜5時間かかる血液透析をしながら現在の仕事を続けていくのは難しい。腹膜透析なら頻繁に通院しなくてもよく、時間の融通もききそうに思えた。

医師からは早い段階で「透析を始めても、今までの仕事はできる限り続けたほうがいい」というアドバイスをもらっていた。そのほうが生活リズムも崩れないし、社会とのつながりを実感できて、メリハリのある毎日を送ることができるからだそうだ。この医師の言葉のおかげで、腹膜透析というマイノリティーだが自由度の高い治療を選ぶ決断をすることができた。ただし、自由には必ずそれに見合うだけの責任も付いてくる。毎日の食事では塩分やたんぱく質などを取りすぎないようにし、飲む水の量にも気をつける。体重や血圧といった数値も毎朝欠かさずに記録する。そのような自己管理を求められるため、正直しんどいこともある。

夜間透析は毎晩9時間かかるため、退勤するのは定時の18時がほとんどだ。仕事が休みの日は透析の終わる時間がずれても大丈夫なので、休みの前日に残業をしている。じつは透析を始める前は毎日のように残業していた。時間内に仕事を終わらせることを真剣に考えず、密度の薄い勤務態度だったと思う。今は、仕事の優先順位を考え、時間のロスがなるべく出ないように効率的に仕事を進めるように心がけている。病気のおかげというと変だが、透析を始めたことで仕事との向き合い方が変化した。

これから、血液透析を併用することになったり、もしかしたら移植を受ける可能性もある。今の職場で頑張り続けたいが、その考えを180度変えなければならないかもしれない。もしその時が来たら、自分にとってベストの状態を維持するために前向きにとらえようと思う。たとえ仕事が変わっても、毎日の仕事と透析、片方を優先して、もう片方をあきらめるのではなく、どちらもできる限り長く続ける。それが私にとっての目標であり、車の両輪のようにどちらも欠かすことができない大切なことなのだ。

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