【 入 選 】

【 テーマ:多様な働き方への提言】
多様な働き方への提言
東京都  竹 内 明 子 40歳

「ママ、毎日、掃除洗濯を家族のためにするだけで楽しい?」

小学生だった私が、専業主婦の母に聞いたことを母も私もいまだに覚えている。父は、典型的な亭主関白で、お茶を入れることさえしなかった。男は、台所に立つものではないというのが彼の考え方だった。私の行儀が悪ければ、すぐに「女のくせに」と言われたものだ。そのたびに、なぜ、同じことをしても男である兄は叱られず、私だけが叱られなければならないのかと不満を募らせたものだ。しかし、母は、何一つ文句を言うことなく、父に尽くしていた。そんな母の背中を見て育った私は、男性に尽くすためだけの人生にはしたくないと常に考えるようになっていた。男性と同等に働ける資格を身につけることを目標に勉強をし、歯科医師となった。この頃には、もはや男性と同等では、満足しなくなっていた。このままでは、どこにでもいる歯科医師の一人で終わってしまう。そんなことを胸に仕事をしているとあることに気が付いた。口の中の症状が改善されると、女性は、徐々に口元だけではなくきれいになっていくことが多い。口元のコンプレックスは、性格までも左右してしまう。そのコンプレックスが取り除かれることで、明るくなり、自然と笑顔がこぼれるようになる。このような人たちのために、私はもっと力になれるのではないかと考え、次なる道へ進むことを決めた。歯科医師となって5年目のことだった。エステティックを勉強するために、歯科医師を続けながら、学校に通い、エステティシャンの資格を取得した。

 現在は、この二つの資格を生かし、歯科医師として、またエステティシャンとして働いている。勉強をすればするほど、次々とやりたいものが見つかる。専業主婦であった母の背中を見てきたからこそ、今のキャリアウーマンとして働く私がいる。そして、専業主婦として、家族のために妻として、母として尽くすことも女性だからこそできる仕事のひとつだと理解できるようになった。

「女のくせに」ではなく「女だから」と声を大にして言いたい。女性だからできないことはなく、女性だから気づくことがあり、できることがある。私は、女性だからこそできることを身につけ、少しでも多くの人のために尽くしたい。そのために、明日もまた、歯科医師として、そしてエステティシャンとして働く。

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