【 佳 作 】

【テーマ:非正規雇用・障害者雇用で訴えたいこと】
都合がよくて曖昧
東京都 misaki 31歳

正社員として5年以上勤めた会社を辞めて、今のシステム会社に契約社員として転職したのは1年と8ヶ月前のことだ。女性のほとんどが契約社員の中小企業。

契約社員。それはときに都合がよく、ときに曖昧で危うい存在であると、今の会社に入って痛感した。

入社後すぐに一緒に仕事をすることになった40代の男性も私と同じ契約社員だった。妻子持ちのその人は敢えて契約社員を選んでいた。曰く、会社が傾き正社員の給与が減ったとしても、契約社員は契約通りの支払いが約束されているからとのことだった。実際、別の会社にいたとき、給与は契約通り支払われたと話してくれた。

入社して数ヶ月、私より少し先に入社した社長秘書の女性が辞めることになった。いや、正確には“辞めさせられる”ことになった。彼女は面接のときから長く働きたいと言っていたのだが、試用期間の3ヶ月で退職を余儀なくされた。仕事や勤務態度に落ち度があったわけではない。ただ、社長が彼女のことを気に入らなかっただけだった。働く意思を伝えることもできず、彼女は会社を去っていった。

10ヶ月目くらいから残業をすることが増えた。立ち上げ当初から携わっていた新システムのリリースが近づいていたからだ。やることは山積みだったが、第一ユーザーとなる企業に安心して使ってもらうために連日残業した。

私が忙しい日々を送っているなか、同じ部の女性はほぼ定時で帰っていた。彼女は完全に割り切っていたのだ。契約社員だから深く入り込まないという意思が口に出さずとも伝わるような働き方をしていた。もちろん受けた仕事を放り出すようなことはしないが、終業時間を30分過ぎてまで仕事をしていることは滅多になかった。

仕事は早いし、判断も早い人だったが、それ以上に“仕事を受けないように”うまく立ち回っていた。

顧客である企業からは質問や相談の電話が毎日架かってくる。その対応をするのも私たちの仕事なのだが、日中は1コールで出る彼女が、終業時間が近づくと3コールまで待つようになるのだ。それだけではなく、彼女は顧客企業の担当になってはいなかった。担当になると名指しで電話やメールがくるし、訪問や打ち合わせなどが発生する。彼女にはそれらがほとんどなかった。

1年半ほど経った今年の4月、正社員にならないかと声をかけられた。少し悩んだ。これ以上仕事が増えるのは勘弁して欲しかったからだ。そこで私は、“契約社員と正社員の違い”を人事担当に細かく聞いてみた。違いは賞与が出るかどうかだけだった。

仕事量が変わらないのならと、正社員になった。

私が正社員になったことで、部内の女性は年上二人が契約社員、年下二人が正社員と真っ二つになった。そのころから、彼女の“契約社員だから”が割り切りから手抜きに変わったような気がした。ネットサーフィンをする時間が増えたし、「じゃ、契約社員なんで」と冗談口調で言って、定時ぴったりに帰ったこともあった。私やもう一人への言葉にトゲが含まれることもあった。

妬みではないと思った。やる気がなくなったのだ。私は1年半で声がかかったが、もう一人の女性は半年ほどで正社員になっている。明確な評価基準なんてないのだ。基準がなければやる気がなくなってしまっても仕方ない。最後のひと月、彼女はネットサーフィンの代わりに次の仕事の勉強をしていた。

契約社員の利点を活かしている人もいるだろう。突然職を失った人もいるだろう。良い言い方では割り切り、悪い言い方では手を抜いている人もいるだろう。また、頑張れば正社員になれると言われて長時間働いても叶えられなかった人もいるだろう。

非正規社員を選んだ本人が悪いという意見をネットで見かけたことがあるが、そういうことではないと思う。他人の苦しみを他人事にしないで、本気で見直す必要があるのではないだろうか。

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