【 佳 作 】

【テーマ:女性として頑張りたい仕事・働き方】
男女の境界が消えるまで
広島県立広島高校 山本栞理 17歳

高校3年生の私には、明確な将来の夢はまだ無い。漠然と「社会学の方面かな」「メディア関連は楽しそうだな」と思っているくらいだ。実際、高校生の私が知っている職種はごくわずかであり、それはそれでいいのではないか、と思っている。そんな私にも、中学生のころから揺らぎのない悩みがある。出産後も継続して続けられる職種は何か。やはり資格がなければ続けられないのか、それならば文系では少ない資格の中で何を取ろうか。こういった、結婚・出産後の仕事のスタイルに関して、ときたま心配になる。きっと、これから歳を重ねていくとこの悩みは増大していくだろう。最近では同級生の女子の間でも将来の話をし、結婚・出産後の退職が話題に上ることがある。そういった会話の途中、ある男子が発した何気ない一言が心に引っ掛かった。「女子は大変じゃね。そういったことも考えんといけんのんよね」言われた直後は特に気にならなかったが、後に違和感が胸の中で広がった。決してその男子を非難したいのでも、同じ悩みを持ってほしいわけでもない。ただ実感したのだ。日本人の意識に女性の社会進出が完全に根付いているとはまだ言えない、と。

社会の中では男女平等が頻繁に謳われ、実際に形になった取り組みも増えてきた。昔より世間には女性の社会進出も浸透してきていると言える。だが、個人レベルではどうだろうか。男性に女性への偏見があるだけでなく、女性にも社会に期待していない点があるのではなかろうか。いくら制度が整っても自分が活用できるとは思っていないのだと考えられる。それを象徴するニュースがある。放送作家の鈴木おさむ・芸人の大島美幸夫妻のことだ。この夫婦は日本に革命を起こした、と私は思う。妊娠に向けての休業「妊活」や、鈴木氏の育児休業「父勉」だ。これに対して肯定的な意見があった反面、一般市民からは「芸能人や自由が利く職業には可能だけど、現実的には無理」といった否定的なコメントがネット上に多くあがった。育児をする男性に対する偏見も少なからずあることがわかる。しかし現在、多くの労働者が育児休業を取得し、復帰後も平常時と同じ形態に戻れるように制度は整っている。では、施行できない要因は何か。会社を運営する人間と取得する権利のある人間の諦観ではなかろうか。つまり、個人の意識の中にはまだ「男女平等な職場」が完成していないのだ。ここでの男女平等は、女性も産後に働き、男性も育児休暇を取れるという両面での平等だ。私も偏見を持ってしまっている一人だと思う。結局、出産後は仕事の形態が悪化するんでしょ?と無意識に思っているだろう。そこで私を含めた、社会を諦観している人の意識改革のために何が必要だろうかと考えた。私は二つの「発信」が必要だと思う。一つは休業と復帰後の平常勤務をしたい、と意思を発信することだ。法律的に正しい権利である、という認識を両者でもつことが行動を引き起こし、社会を動かす。そして制度の施行を身近なものにしてくれる第一歩になるだろう。もう一つは施行したという結果の発信だ。情報化が進んだ現代では、一般市民が気軽に意見を言える場が増えたし、従来からある口コミも重要な情報源になる。もちろん、正しい情報を発信する義務は伴うが、一般市民という身近な存在の貴重な意見が世間の意識を変えると思う。つまり、自分たちの生活を変えたいなら、自分と同じ段階にある人々の生活に目を向けることから始めるべきなのだ。

女性特有の悩みとされてきた結婚・出産後の勤務形態の改善に向けて、社会は前向きに取り組んでいる。そういった社会の姿勢をまずは認められるか、個人の段階に掘り下げ当てはめることが出来るか、という積極的な考え方が労働の新たなスタイルを生み、個々の幸福を実現するだろう。

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