【 努力賞 】
【テーマ:私が実現したい仕事の夢】
スロースターターの実現したい夢
兵庫県 福井昌則 39歳

現在私は、数学教育とプログラミング教育に関する仕事を行っている。プログラミング指導、資料作成、論文執筆、アプリ開発など大変なこともあるが、先生や高校生と議論をしながら活動することは大きな楽しみの一つであり、かけがえのない大切な時間だ。

私には、今行っている活動をさらに続けて実現したい仕事の夢がある。それは「高校生をはじめとした学生の創造性を伸ばす数学教育を行うこと」「数式処理システムやプログラミングを用いて発見的数学学習を支援すること」「この活動を国内外に発信すること」の3テーマを軸とした、新しい数学教育を確立したいという夢である。この夢の実現は簡単なことではないが、ゆっくりと着実に一歩一歩近づいている。

しかし、うまく行かずに悩んだ時期もあった。幼少期から研究者や教育者になりたかった私は、大学の研究員や一般企業勤務を経て今の仕事をするようになった。しかし困難な状況に幾度となく直面し、なかなか軌道に乗らなかった。経済的に困窮したこともあったし、人と会いたくなくて一人で全部責任を背負いこんでしまい、精神的に辛くなったこともあった。そのことが焦りを生み、悪循環に陥っていたが、このような状況は初めての経験ではなかった。学生時代、一般企業に勤務していた時代、大学の研究員時代、それらの時期でいつも劣等感が強かったことから周りとコミュニケーションが取れず、一人で抱え込み過ぎて苦しみ、悪循環に陥っていたことを長く引きずっていた。どうしようもなくなってしまい、社会復帰に何年もかかった時期の記憶に、翻弄されることも日常茶飯事だった。

あるとき、私の挫折には、自分自身に対する自信の無さとコミュニケーションへの苦手意識がベースにあるのではないかということがふと頭を過り、夢の実現のために、自分を見つめ直す作業が避けられないと考えるようになった。しばらくの間、置かれている状況や性格、今できることなど、様々なことについて考え倦ねる日々を過ごし、「苦手なことは苦手なこととして捉え、得意なことを少しずつでも増やそう、諦めずにやり続けることからしていこう」と決め、毎日取り組むことにした。

そして、最初の学会発表を行ってから、状況は少しずつ好転しはじめた。論文も多数投稿することができた。さらに、私が参加しているチームが、小柴昌俊科学教育賞奨励賞を受賞した。その賞の中で、私は責任者の一人としてプログラミングを担当した。個人では、ゲーム学会主催のゲームコンペで審査員特別賞を受賞した。プログラミング講師の依頼も来るようになり、様々な方向で認められることが増えてきた。実現したい夢の入口に到達したと思える結果や成果も出てきて、ようやくスタートラインに立てた喜びを実感できたのである。

このようなことを経て、今現在、数学教育に携わっている。先に挙げた3テーマを軸としてどのように活動を行っているか、その概略について紹介する。まず学生に数学の問題を紹介し、その問題を変形するように伝える。その変形した問題の中には、数学的に新事実であるときがある。その新しい問題を数式処理システムやプログラムを用いて検証し、法則を見出す。そしてその法則について証明を行い、国内外の論文誌に投稿、学会発表、コンテスト出場、アプリ作成などを行う。重要なのは、この活動は特別な能力を持った学生によってではなく、数学やプログラミング好きの一般的な高校生によって行われていることである。この活動をさらに展開し、数学教育に新しい風を吹き込みたい。夢を実現するにはまだまだ時間はかかるが、一歩一歩確実に近づいている。

紆余屈折していた時期は長かったし、スタートラインに立つのは遅かったかもしれないが、私が実現したい仕事の夢は、ずっと破れない。

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