【 佳 作 】

【テーマ:女性として頑張りたい仕事の・働き方】
心の支えになった一通の手紙
新潟県 伊藤恵立子 39歳

私は、先輩の先生からいただいた一通の手紙を大切にしている。今でも読み返す度に、胸がジーンとなる。仕事でつらい時、子育てで慌ただしい時に読むと、もう少し頑張ろうと、前向きな気持ちになる。

大好きな「働くお母さん」という言葉も、その手紙の中にあった。

働くお母さんになって10数年。子どもをお願いできる家族が夫しかいない中で、夫に協力してもらいながら教師として働く私は、時間ほしさに悩むことが多くある。心からなりたいと思い就いた仕事と、お母さんとして子ども達と過ごす時間。不器用な私は、どちらもバランス良くこなすことができない。

子どもがいても、仕事は待ってくれない。ノートのチェックやテストの丸付け、打ち合わせや保護者への電話が終わると、やっと翌日の授業の準備ができる。発達障がいの子がクラスにいることが多い現代の教育現場。個に応じた指導や支援をするには、教材準備は欠かせない。

でも、働くお母さんには、子どもが待っている。多くの同僚が遅くまで残って仕事をする中、仕事を残したまま職場を退勤し、30分で夕食の準備。子ども達が寝た後、翌日の準備と仕事の残りを片付ける頃には、夜中の12時を過ぎることもしばしば。

誰かにつらい気持ちを共感してほしい。頑張ってるよと認めてほしい。情けない私は、普段は前向きで明るいことしか書かない先輩への手紙に、弱音を書いてしまった。

返事の手紙には、先輩の苦い子育ての思い出と、私が欲しかった言葉が書いてあった。

私には思い至らなかった強さに憧れ、相手を想う深い優しさに涙が出そうになった。

子育てはみんなでできるが、子どもを産めるのは女性だけである。子どもをみてくれる人がいていいなとか、遅くまで残って仕事ができる人がうらやましいと、他の人と比べてしまうことがある。悩むのは、10カ月間お腹で育った命のつながりがあるからかもしれない。

あまりの忙しさに、仕事を辞め家庭に入る人もいる。「お互い様」と先輩方は言ってくださるが、迷惑をかけて申し訳ない、私も家庭を選んだ方がいいのでは、と悩むことがある。

「母は強し」という言葉を信じ、働くお母さんの弱さを人に見せないよう、ずっと頑張ってきた。仕事ができること=立派な働くお母さんだと思っていた。

きっとそれも、間違いではないのかもしれない。でも、手紙をもらってから、胸が痛み涙した子育ての苦い想い出を、私に教えてくれた先輩のように、弱さを見せられる強い働くお母さんになりたいと思うようになった。

無責任に放り出すのと、頑張ったけれどできなかったというのは違う。時間が限られているのだから、誠実に仕事に向き合って、
「ありがとうございます。助かります」
と、素直に頭を下げられる人でありたいと思う。

温かい言葉は温かい言葉で、冷たい行動は冷たい行動で、鏡のように自分に戻ってくる。

私は、先輩から温かい言葉をたくさんいただいた。気付かない所でも、たくさんの人に助けられているからこそ、不器用な私でも、子育てをしながら、仕事を続けてこられたんだと思う。

慌ただしい子どもとの時間が、いつか終わった時、つらい思いをしている仲間がいないか、相手の気持ちを思いやれる温かい働くお母さんになれたらと思う。

もしかしたら、働くお母さんではなく、働くお父さんが子育てと仕事に悩むという状況に出会うかもしれない。性別に関係なく、
「大丈夫。今は子育てを大切にしていいよ」
と、笑顔で言える先輩になりたい。

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