【 努力賞 】
【テーマ:仕事・職場から学んだこと】
お金の重み
東京都 匿名希望 27歳

「年明けとともに私の人生は再スタートを切る!」そんな期待と若干の不安を胸に私は眠りについた。約半年前、私は長年の希望であった事務職に就くことができた。非正規雇用とはいえ、フルタイム勤務。社会保険も完備。時給は比較的低めだがこれといって不満はない。「パソコンは得意!表向きは協調性があるし、きっとうまくいくだろう」。私はもう以前の私ではない…。新たなる決心を胸に、はやる気持ちを抑え、私は扉を開けた。

「こんなこともわからないの?」「全然進んでないじゃない!」「私が休んだら、あなたどうするつもりなの?」

つい先程までタカをくくっていた自分を呪った。私の目の前には今後の仕事内容が記載されたマニュアル。そして隣には私を怒鳴り散らす先輩の姿。これまで他人から受けたこともないような暴言のシャワーが私に降り注ぐ。

「やっとの思いで掴んだチャンスだったのに…。こんな思いをするために私は入社した訳ではない…!」
罵声よりなによりも自分の非力さ、愚かさに嫌気が差し、私の中の負の感情は、「涙」という形で暴発した。人前で泣くことなど、これまで一度もなく、むしろ「恥」だと思っていた行為を他の紛れもなく私自身が行っている…。その事実を受け入れ難く、さらに葛藤、嗚咽、正に悪循環そのものであった。

あれ程憧れていた職種にも関わらず、早くも自信をすっかり失い、今後のことを考えていた。しかし大学卒業後から数年が経過し、新卒以外、加えて未経験者の就活の辛さが身に染みていた私に新たな職を探そう、という決心は完全には付かなかった。これまで私は自分のことを「我慢強い」という根拠のない自負があった。しかしいざ社会に出てみると自分の未熟さばかりが目につき、毎日出社が億劫でたまらなかった。しかしその一方で、なかなか採用されずに、苦しんでいた日々のことを思い出すと、今の私の悩みは、非常にちっぽけでつまらないことのように思えなくもなかった。

そして迎えた初めての給料日。明細を確認すると、これまで感じたことのない思いが胸に込み上げた。金額は決して多いとは言えなかった。しかし、1ケ月間の私の苦悩、涙、葛藤すべてがぎっしりと余すことなく詰まっているような気がし、何度も何度も確認してしまったぐらいだ。短い期間だが、私が先輩からの罵声、己のふがいなさにこらえた結果だと思うと「お金=対価」に非常に重みを感じた。振り返ってみると私はこれまでの人生でお金という唯一無二のものをどこか軽視していた気がする。ストレス発散という名目で散財し、タンスの肥やしになったものは数知れず。買い物だけではない。これまでの私の学費を含む養育費も両親が辛い思いをしながら、稼いできてくれたものである。幼い頃、習い事などに関しても、反対せず、やらせてくれた両親。なのに私は金額にふさわしい努力や親孝行をせず、お金をドブに捨てて来てしまったような気さえもする。もちろん「お金=人生のすべて」というわけではない。しかしある程度のお金がなければ、衣食住の最低限の生活さえできない。今後は私を大切に育ててきてくれた両親に心から感謝し、お金に対する知識をより深め、周囲の人々の役に立ちたいと思った。

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