【 佳 作 】

【テーマ:仕事・職場から学んだこと】
君の笑顔が誰よりも見たくて
福岡県 ももぴ 30歳

「大好き」と毎日言ってくれる世の中のどんな男性よりもマメな男の子がいる。その子の口癖のような大好きがいつの間にか、他の子達にも伝染し、私の名前の後には、大好きがつくようになった。とっても笑える嬉しい話。それをもう2年も続けてくれている彼らと、大好きの後には、抱きしめ、ほっぺにほおずりすることが日課となった。もしかすると、日本のどの女性よりも毎日沢山のハグをしているかもしれない。私は職場でモテモテだ。

さて、こんな話をすれば、どんな職業か不思議に思われるかもしれないが、
私の職業は、最近ニュースでよく取り上げられる保育士だ。待機児童問題、安月給、モンスターペアレンツ等ネガティブな問題が多い業界であるが、嬉しい事もその倍ある素敵な職場であると私は思っている。

毎朝、私は出来るだけ大きな声で、そして笑顔で挨拶をする。「おはようございます」すると、よちよち歩きの男の子が、私の元に寄ってきてペコッと頭を下げた。その後、次々に挨拶の声が聞こえる。泣いている子に声をかけながら、私の手を握ってきた小さな手を握り返し、一緒に他の保育室にも挨拶に行く。朝の挨拶で、私は子ども達の様子を見ながら、体調や感情を把握していく。誰一人として毎日同じように過ごすことはない。だから、出来るだけ私の小さな目を大きく開けて、一人一人を見る事を忘れない。

数年前の話しだ。ある日、男の子(A君)が熱性痙攣を私の目の前で起こした。体調が悪かったにも関わらず、保護者に何度伝えても、「大丈夫です」と言い仕事に行かれていた。その日も、いつも通りの日常。「昨日も体調悪かったけど大丈夫ですか?」と伝えていた。でも、体の限界がきたA君は、高熱を出した。何度お母さんに電話しても繋がらない。職場にも伝言を伝えた。そして、連絡が取れず2時間後に熱性痙攣を起こし、A君を救急車で病院に運んだ。その後連絡がとれたものの、A君のお母さんは仕事には行かず、友人とお茶をしていたらしい。私は、その時の痙攣を起こしているA君の姿がいつまでも忘れられない。そして、A君の代弁者であったはずの私たちが、大丈夫ですというお母さんの言葉に負けて、体調の悪い子どもを預かっていた事を凄く反省した。私たちは、子どもを預かる立場であると同時に、小さな子ども達の代弁者だ。子ども達が伝えられない言葉を保護者に伝える役割もあるはずにも関わらず、何度伝えても話しを聞いてくれない親に屈していた自分の愚かさに落ち込んだ。それから、私の毎朝の日課が始まった。朝の笑顔とスキンシップ。その中に、必ず保育士としての目を忘れないようにした。何かあったら言いにくい事でも、お母さんに嫌な顔をされても出来るだけ話をするようにしている。子ども達の笑顔を守るのも私たちの大事な仕事だからだ。

今日の夜、7月としては最大級の非常に強い大型台風8号が明日九州に接近するというニュースが流れていた。そんなニュースを聞きながら、子ども達が明日無事に保育園に到着するように祈りながら、仕事の準備をし、就寝につく。明日も君の「大好き」を聞きながら、君の大好きなハグをするために、私は仕事に出かけるのだ。これからも子ども達と真摯に向き合い、いつでも子ども達の笑顔があふれるように努力していきたいと台風の風にふかれながら思うのだ。明日も君の笑顔が誰より見たくて。先生も君たちが大好きだよ。

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