【 佳 作 】

【テーマ:私の仕事・働き方を決めたきっかけ】
プラスワントーク
京都府 川北望 25歳

私は手芸用品を扱う会社で事務職をしています。業務の大半を占めるのは電話応対で、中でも消費者の方の応対がとても難しいです。お客様からはご注文やクレームをはじめ、予測できない様々な内容のお電話をいただきます。入社当時はとにかく電話を取ること、その他の業務をこなすことに必死で、お客様を気遣う余裕なんて全くありませんでした。

しかし、勤めて2年程経ったある日、転機が訪れました。旅行帰りに立ち寄った東京駅で、お土産を買った時のことです。たった千円くらいしか商品を買っていないのに、店員さんが満面の笑みで
「たくさんありがとうございます!」
と言って丁寧に商品を渡してくれたのです。それがとても衝撃的で、はっとしました。自社が取り扱う商品は、少量でもすぐに5千円くらいになったり、高価格の作品なら1万円以上の材料をご購入いただくこともあります。それなのに、そのお土産屋さんのような台詞を私は一度もお客様に言ったことがなかったのです。ただ事務的に「ありがとうございます」とだけ言って、お客様1人1人に感謝することなく、まるで流れ作業のように次々と電話応対をしていたということに初めて気がつきました。それと同時に、今までお客様に大変失礼な態度をとってきたと、とても反省しました。

次の日。朝一番にご注文を承ったお客様に、早速あの台詞をマネして言ってみました。すると、とても明るい声が返ってきました。
「こちらこそ、ありがとう。頑張って作って、また次の材料を注文するから。その時はよろしくね」
今までの応対では考えられないお返事に、とても驚いたのを今でも覚えています。その数日後、恐る恐るご注文の電話をかけてこられたお客様がいらっしゃいました。
「今度、孫が生まれるの。だから、おくるみでも作ろうかと思って・・・」
「それはおめでとうございます!」
以前の私なら「そうですか」で終わっていた会話を少し変えてみました。すると、たったこの一言でお客様の声色が一変しました。
「ありがとう!あのね、実は双子なの!もう、2人分だから作るのが大変だわ!」
まるで我慢していた嬉しさや幸せが一気に溢れ出したかのようでした。このように、うまくお客様の気持ちを引き出すことができると、本当にこちらもあたたかな気持ちになります。
「今度、家族が中国の寒い地域に転勤するの。だからあったかいセーターを編んで持たせたいの」
「来月、結婚するんです。記念に、式では手作りのリングピローを使いたくて」
「春から子どもが幼稚園に通うんです。通園カバンにこのワッペンをつけたら可愛いなと思って」

今は安くて良いものが簡単に手に入る時代です。わざわざ材料を買って手間のかかることをするより、既製品を購入した方が当然楽で経済的です。それでも、作品ひとつひとつに様々な想いが込められるというのは、手作りでしか生まれない素晴らしい付加価値です。

私は企画職や生産職のように、お客様に喜んでいただけるような商品を作り出すことはできません。そのことが勤めた当初とても辛く、自分のやっている事務の仕事は何の意味があるのかなと思う時もありました。しかし約5年勤めた今、やっと自分の仕事は「お客様に気持ちよく商品をご購入いただくこと」だと気づきました。それは商品を作ることと同じくらい重要で必要不可欠なことだとわかりました。

初心者の方には手作りライフの第1歩を気持ちよく踏み出していただけるように。すでに手作りを満喫されている方には、これからも思う存分その楽しさを感じていただけるように。今後も、それぞれのお客様に合った最適な方法を、お客様と共に考えられるようなサービスを目指して努力しようと思います。

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