【 入 選 】

【テーマ:私の仕事・働き方を決めたきっかけ】
一通の手紙から、私の仕事が始まった
岐阜県 eiry 27歳

〜毎日夜遅くまでお疲れ様です。
勤怠チェックをしていて、どうしてもお伝えしたいことがあったので、お手紙を書くことにしました。退勤時間が毎日22:00となっていましたが、22:00を超えて働いていらっしゃる姿を何度か拝見したことがあります。もしかしたら、どんなに働いても「22:00」という暗黙のルールがあると思っていらっしゃるのかもしれませんね。実際にそのように話す人もいて私は衝撃を受けましたから。

ハッキリお伝えします。そんなルールはありません。
残業代をもらうことが会社の負担になってしまうのではと心配し、会社のために申告できないと言うのならば、それは必ずしも会社のためになっているとは言いきれません。

会社には労働時間を適正に把握する義務があります。正しく把握して初めて、より良い労働環境づくりへの一歩を踏み出すことができるのです。会社が会社としての役割を果たし、さらに成長するために、あなたが正しい労働時間を申告することが必要なのです。

それ以上に、私は、あなたと会社の信頼関係、あなたのご家族と会社の信頼関係のためにも実態に合った労働時間を申告していただきたいと思うのです。毎日夜遅くまで働くあなたのことを心配しながらも応援していらっしゃるご家族は、今、どんなお気持ちでいらっしゃるのでしょうか?成長し続ける会社を支えるために毎日遅くまで働いている子どもの姿をこの目で見ているのに、全くもってその分の対価が支払われていないなんて、納得できるでしょうか?これから先も心から応援してくれるでしょうか?毎日遅くまで大変だけど、ちゃんとその分の残業代が支払われているということは、会社があなたの頑張りを認めているということの確かな証明の1つです。その証明をご家族にも見せて欲しいのです。あなた自身のためにも、会社のためにも、ご家族のためにも、実態に合った労働時間の申告をしていただけないでしょうか?

お体を大切に、くれぐれもご無理はなさらないでくださいね。〜

7か月前。入社1カ月の私は、小刻みに震える手でこの手紙を書きました。

急成長し続けるベンチャー企業の中で、労働時間という概念を全く持たず、ただただやるべき膨大な仕事に昼夜を問わず邁進し続けてきた社員たちに、どうしたら「正しい労働時間」の重要性を伝えられるのか、悩みに悩んで書いた手紙です。

入社したばかりの私が、会社の怒涛の歴史をひっくり返すようなことをして良いものなのか・・・。ですが、私は、一社員である前に、社会保険労務士です。労働者がより良い環境で、自分らしく働けるような機会を作り、労働者と会社の間により深い信頼関係をもたらすことが私の仕事なのです。

管理部門から始め、研究部門、そして営業部門へ。コツコツと、正しい労働時間の意味・健康に美しく働くことの意味を一人一人に訴え続けました。会社とは社会とはこういうものだと言う新卒社員から本音を聞き出し、前の会社とのギャップを感じながらもこの会社はこうなんだと暗示をかけ続けていた中途入社者と理想を語り合い、長年会社のために時間も気にせず、走り続けてきたリーダー達と口論になりながら。

時には、暴言を浴びせられることもありました。「お前は会社を潰す気か?!」と。

8か月経過した今。退勤時間に、18:00や22:00がきれいに並んでいるなんてことは無くなりました。実際に働いた時間までを申告し、必要に応じて深夜残業申請をする、上司部下でコミュニケーションをとり、時間と健康を意識して、今日の仕事・明日の仕事を話し合う、そんな新しい習慣ができてきています。

7カ月前に書いた手紙の受け取り人が、こんな手紙をくれました。

〜当たり前は、当たり前ではなかった。普通だと思っていたことが、普通ではなかった。変わるはずがないと思っていたことが変わった。変化し続けるこの会社で、まだまだ頑張っていけそうだ。私も変えていくよ、会社を、自分自身を。〜

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