厚生労働省職業能力開発局長賞

【テーマ:仕事・職場から学んだこと】
感謝の気持ち
神奈川県 朝木里桜 32歳

「ただいま〜!!」
満面の笑顔で両の手を伸ばす先には、ニコニコと歩み寄ってくる、小さな、けれど、とびきりの笑顔の持ち主が待っている。

仕事で疲れて帰ってきても、まだ、「おかえり」の言葉も言えない小さな我が子を胸に抱くと、毎日のことながら、嬉しくて涙目になる。

一年の育児休職を経て、我が子を保育園に預けるようになってから三か月。最初は大泣きをしていた我が子も、今ではノリノリで保育園をエンジョイしてくれている。

大学院を出て就職し、毎日毎日、朝から晩まで仕事にあけくれていた。傍からみれば、いわゆるキャリアウーマンに見えたことだろう。

結婚して、主人の夕食を作るために、少し早く帰宅するようになったが、それでも、平日は仕事中心の毎日だった。

しかし、我が子を授かってからというもの、その生活は一変した。頭を締め付けられるような頭痛に加え、一日に20回も嘔吐するほどの酷い悪阻。正気を保つのもギリギリの毎日の中で、這うようにしながらも仕事を続けていた。人一倍早く始まり、人一倍くまで続いた悪阻の症状は、およそ五か月間にわたった。

その時だった。職場の人たちの接し方が、明確に分かれたのだ。顔色の悪さを見て、少しでも負担を減らそうと気遣ってくれる人。悪気はなくとも、心無い言葉を向けてくる人。昇進をさせるのが難しくなったと、落胆の色を見せる人。様々だった。

そしてそのそれぞれに、いろんな思いを抱き、悩んだ。負担や迷惑をかけることへの申し訳なさ、理解のない姿勢への言いようのない失望、事実上、昇進の道が閉ざされることへの悔しさ…

子供を授かったことへの涙が出るほどの感謝と、これまで努力してきた仕事における大きな代償とに挟まれ、たくさんの思いに押しつぶされそうだった。

女性が仕事を持ちながら、家庭を持ち、子供を授かるということは、こういうことなのだと、心底実感した。

あれから二年。無事に出産を終え、子供との蜜月の一年を経て復職した今も、仕事と家庭の両立は、本当に難しい。主人の協力があって、定時出社、定時退社で、勤務時間を何とか死守し、人並みの勤務につけてはいるものの、夜になると、文字通りへとへとだ。それでも、仕事量の調整や、事実上の時間外勤務の制約など、職場からの期待に応えられない部分はかなり大きい。残業が多く、仕事中心の同僚や上司に対し、思うように戦力になれていないことへの申し訳なさと歯がゆさは、いかんともしがたい。その精神的負担は、帰宅時の肩に重くのしかかる。

けれども、保育園にお迎えに行くと、我が子の小さな両の手が、そっとその重荷をおろしてくれる。そして、言外に教えてくれるのだ。今、自身が手にしている何もかもが、「ありがたい」のだということを…

復職しても、元の仕事につかせてもらえているから、十分とはいえないまでも、仕事をすることができているのだ。目に見えないところで、たくさんのフォローをしてくれている上司や同僚がいるからこそ、我が家に手作りの夕食が並び、笑顔があるのだ。

小さな体ながら、先生やお友達と接することで、日々成長してくれる我が子のおかげで、仕事を続けられているのだ。

何より、その両方を、ともに背負ってくれる主人がいるから、今の当たり前の毎日が迎えられているのだ。

仕事につけていること。

主人がいてくれること。

子供がいてくれること。

その全てが、当たり前ではなく、努力して、精いっぱいをかけて守るべき、大切なものだと思える。仕事と家族が教えてくれる、かけがえのない気持ち…

仕事に、職場の人たちに、子供に、そして主人に、今日も、心からの感謝をこめて。
「ありがとう…」

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