【 奨励賞 】
【テーマ:私の仕事・働き方を決めたきっかけ】
出会いで選んだ私の道
岩見沢地域若者サポートステーション 相田良子 52歳

「僕は宇宙の仕組みに興味があるので、高校卒業後は大学で宇宙物理を勉強し将来は研究者になりたいと思っています」
それは息子が中学3年生の冬、高校の推薦入試の際に提出する志望動機の一文でした。
下書きを見せてもらった私は、息子が自分なりに将来の夢を描いていることを初めて知り頼もしさと、親には何の相談もしてくれない寂しさを感じたものでした。

当時、息子の担任のS先生は子どもたちや保護者からも人気があり信頼されていました。ある時、私はS先生に例の志望動機に書かれていた夢について話をしてみました。

「よく、二人で宇宙の話で盛り上がるんですよ。いろんなことを知ってますね。彼にはいずれノーベル賞を期待しているぞ!と言ってありますよ」そう笑顔で答えてくれました。
S先生は理科が専門で、宇宙好きな点が息子と意気投合したようです。身近で自分の事を応援してくれる人がいた経験は息子にとっていい刺激だったようで、中学の職場体験の際には一人で北大の理学部を訪ね、研究者になるにはどうしたらいいのかを教授に聞きに行ったほどでした。
この行動力はS先生の存在があったからだと思っています。

私は現在「キャリアカウンセラー」として、若者の相談をしています。
この仕事に就くまでは主婦だったのですが、息子と先生との関係を見ているうちに進路に関わる仕事をしてみたいと思ったのです。さすがに教師を目指すのは現実的ではなく、相談を受ける仕事を選びました。

ところが、いざ「相談員」となった私を待ち受けていたのは働くことに迷子になっている若者たちでした。 自分が当たり前に感じている「働く」意識を底辺から問われるのです。そこにはキャリアカウンセラーのスキルや知識だけでは解決しない答えを待っている若者がいました。
正直、対応に困り果てることもありました。そこで思い出したのが、S先生の在り方でした。

生徒の夢を一緒になって考え、楽しみ、応援をしてくれたあの姿勢を忘れられません。結局、本音でぶつかる事を選びました。働くことに正解も間違いもないと気づいたのです。

社会人としての一般論を語っても、目の前の若者たちには響きません。
「頭ではわかっているけれど動けない。不安だらけな状態を受け止めて欲しい」これが彼らの正直な気持ちなのではないかと思いました。相談だけですべてが解決はしませんが、想いを聴いているうちに少しずつ変化が表れてくることがあります。誰かに応援してもらえる安心感が次の行動を生んでいきます。そんな若者を見ていると、この仕事をやって良かったと心から思えます。

「働くってなんだろう?」というテーマを、相談の度に若者たちに問いかけてみます。
一番多いのは、「生活のためにお金を稼ぐ」という答えでした。それも正解。「人の役に立つこと」も大切です。いろんな思いがあってもいいのです。自分が信じた道を一歩ずつ進むことが「働く」であり、「生きること」に繋がっていくと思っています。働く前から将来や先行きを心配しても仕方がないのです。
社会の中で経験を積んで、初めて夢ややりたいことが見つかることもあります。
失敗をチャンスに変える若者がもっと増えてくれますように。

人が持っている力の素晴らしさを教えてくれたこれまでの若者たちと今の仕事のきっかけとなったS先生との出会いに感謝しつつ、相談を続けて行きたいと思います。

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