【 努力賞 】
【テーマ:非正規雇用者として社会と職場に期待すること】
同一企業内での非正規雇用と
      正規雇用の共存制度を
福岡県 はるかかなた 58歳

非正規雇用で、地元の小さな地域団体に勤めて9年になる。ボーナス、退職金なし、雇用保険以外の社会保険もすべてなし、というないない尽くしの職場で、月々の給料は週3日働いて7万円前後―これでやっていけるのは、6人の職員全員が主婦や定年退職後の男性ばかりで、他に収入の道があるからだ。

だが、主ではなく副としての収入と仕事での社会参加を求める者にとって、非正規雇用で働くことは悪い面ばかりではない。給料は安いかわりに、時間的な自由がきき、子育てとの両立もしやすい。私自身、この仕事に就いた時には下の子が中学生だったが、子供の学校行事にも参加でき、仕事を通して得られる様々な経験が、子育てや家庭生活にもプラスになったと思っている。少子高齢化によって将来の労働力不足が懸念される日本では、非正規雇用を一概に悪いと決めつけるのではなく、非正規雇用と正規雇用を組み合わせた柔軟な働き方を、働き手が選べることが重要になってくるだろう。

問題は、非正規雇用で働く、働かざるをえない若者が増えていることだ。厚生労働省のデータによると20年前には20%ほどだった非正規雇用者の割合は2013年には36.7%になり、特に24歳までの若者の間で急増しているという。

20代といえば本来なら、仕事の基礎的な知識や技術を身につけ、社会的な基盤を固めて結婚して家庭をもつ年齢である。この年代に非正規雇用が急増しているということは、低所得ゆえに結婚できない・しない若者を増やして少子化にますます拍車をかけ、将来的には、彼らが日本社会の中枢となるべき年代になった時に、年齢にふさわしい経験のない未熟な中高年を大量に生み出すことにもつながってくる。若者の非正規雇用は今だけでなく、将来の日本社会を不安定化する危険な働き方だと思う。

少なくとも20代くらいまでの新卒時の若者に限って、非正規雇用での採用を禁止するといった思い切った法的措置が必要ではないだろうか。新卒者を雇う場合は、本人が望まない限り基本的に全員正規雇用で雇うことを法律で義務付ける。そのかわりその企業に対しては、この人たちの社会保険料を国がある程度補てんするといった経済的な優遇策も考えられていい。法人税の一律減税よりも、個々の企業の内実に応じたきめ細かな経済対策の方が若者の雇用問題への効果は大きいだろう。また正規雇用を隠れ蓑にした長時間労働やサービス残業などを強いる、いわゆるブラック企業対策も同時に強化する。

また同一企業内に非正規雇用と正規雇用の働き方を共存させ、新卒者は原則正規雇用、ある程度の年齢になっても、経費削減の時にも早期退職ではなく同じ職場での非正規雇用を選べるようにする、もちろん本人が希望すれば退職や転職もできるというシステムを作っていくことも重要だと思う。今のままだと非正規雇用者はあちこちの職場を転々とせざるを得ず、それが技術やキャリア、職業倫理の形成などにも悪影響を及ぼすことが多いが、同一企業内に非正規、正規の働き方を選べるシステムがあれば、企業にとっては人材育成の面でも有利だし、働く者にとっては同一企業で働き続けられるため、キャリアやスキルが途切れない利点がある。また日本的な愛社精神の良さも残せる。

このシステムがあれば、女性なら子どもが生まれたら一時的に非正規雇用に移り、子どもがある程度大きくなったら再び正規雇用に戻る。男性もそれぞれの事情に応じて、希望すれば正規雇用と非正規雇用を行き来できる。ある程度経済的な基盤のある人は、早めにリタイアして、家の近くで非正規雇用で働きながら趣味や好きなことをする、という生き方もできる。

同一企業内での非正規雇用と正規雇用の共存制の整備を進めながら、派遣や短期雇用といった労働環境で働く若者たちを減らしていくことが、これからの日本社会の健全な発展や、ひいては少子化対策としても有効ではないかと私は考えている。

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