【 佳 作 】

【テーマ:非正規雇用者として社会と職場に期待すること】
未来は必ず創造できる
三重県 ごが きんじょう 52歳

働くうえでのやりがいとはなんだろう。客観的にみれば、日雇い派遣で働いているわたしは、やりがいのない仕事をしていることになる。試食販売、祭りやコンサートなどのイベントや量販店でのフェアにおける設営や撤去、工場や倉庫での軽作業といったおおむね経験不問で特別な技術や資格も必要なく務まる職場だ。だからこその落とし穴がある。

どれだけ長く働いてもキャリアにならないし、賃金もアップせず、失職の不安も日常的だ。生活においては現状維持ならまだしも、ジリ貧になる可能性が高い。それでもやりがいがある、と言いたいのだ。けっして強がりや見栄ではない。評価をくだすのは派遣元の人材派遣会社でも派遣先の企業でもなく、自分自身だ。たんなる自己満足でしかない、という意見にはうなずける。けれども、むなしさややるせなさに負けずに働けるのは、力を出し惜しまないのが生きる意義につながるためだ。目標に向かって力をあわせている時の充実感や、仕事を終えた時の達成感や満足感には働く者すべてに共通した喜びがある。

不平不満がわかるからこそのいたわりに触れると、疲れもいとわずに心身もフル稼働する。

ところが、やりがいは利用されやすい。正規雇用者の廉価版労働力としての位置づけでは、派遣元や派遣先の利益に貢献しても見返りはないのだ。甘んじて格差を受け入れ、刹那的な生きざまをするうちに、日雇い思考が染みついてしまう。きょうあすのことだけを考え、破綻するだろう未来には目をむけない。視野が狭くなり、向上心がなくなるのだ。要領のよさばかりを追究すると気持ちがすさぶ。職場でも浮いた存在になってしまう。

一度も就職経験のないまま登録型派遣で働く者が増えている。収入面での格差はもちろんだが、精神面でも格差ができる。派遣労働者というだけで、劣等感を持つような風潮になっているためだ。高齢者などの場合にはやむをえないと受けとられるが、若者の場合には社会適応力の能力偏差値が低いという偏見がある。正規雇用者との格差が拡大すればするほど、偏見も比例して蔓延した。格別な注意を払わなくなった。社会的な暗黙の了解になっているのだ。大企業の正規雇用者が平均的な労働者といった誤った観点から労働問題を考えていては、雇用に関して根本的な解決がほど遠くなるいっぽうだ。既得権益を守るような問題提起ばかりでは非正規雇用者は永遠に報われない。正規雇用者の生活を守るために非正規雇用者が働いているような現状は、構造的に重大な欠陥がある。是正するための関連法規を整備する必要性があるのだが、時代の進みようは加速度的に精神的な余裕を奪っている。ゆとりのない社会では、ますます格差は拡がるだろう。

現在の雇用システムが時代にそぐわなくなっており、大胆な刷新をせまられている。無責任だとのそしりは免れないだろうが、現状に甘んじていてはいつまで経っても社会は変えられない。非正規雇用者は待遇面で低いあつかいを受けるからこそ、人間的な厚みや社会を見る公平公正な視線が育まれる。失業と隣りあわせで常に危機感を持って働くうちに、仕事に対する厳しさや誠実さが培われる。立場上の弱さは人間関係においても気づかいを求められるので、他人を思いやるやさしさやコミュ二ケーション能力が養われるのだ。

最大最強の利点ともいえるのだから卑屈になる必要はない。殻を破る覇気と勇気を備えてほしい。仕事は見つけるものではなく作るものだと意識改革をして、不公平な労働現場をよりよくしてもらいたい。非正規雇用者だからこそ、しがらみにとらわれない大胆で斬新な意見や卓越した企図の発想も可能だ。同じ思考回路に偏りがちな固い頭では、人口減少期を迎えた未来で社会が崩壊するのは確実といえる。効率性よりも人間性が求められる時代の扉を開いてほしい。わたしが流す汗やくやし涙は無駄ではないと信じたいのだ。

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