【 努 力 賞 】

【テーマ:仕事から学んだこと】
笑顔を忘れない
静岡県 かえで 19歳

「今日は忙しくなるぞ。笑顔を忘れるな!」

大学生になって、居酒屋でアルバイトを始めた。私にとって初めてのお金を得る仕事だ。
研修期間は覚えることが沢山あって、メニューや値段はリスト表を家に持ち帰って反復した。先輩が仕事の手順を丁寧に教えてくれたが、それを頭に叩き込むことだけで精一杯で、笑顔を作る余裕がなかった。

最近私はよく、高校生の時に先生が配ってくれたプリントを思い出す。それは「仕事」に関するものだった。

3人の土木作業員に、何をしているかと尋ねると、

1人は「土を掘っているのさ」と答え

1人は「金を稼いでいるのさ」と答え

もう1人は「ここに町の人が自由に行き交える橋をかけるのさ」と答えた。

先生はこうして、将来を模索する私たちのために、何かヒントになるような記事があれば、プリントにして配布してくれた。同じ仕事をしている3人が、1人はその仕事を与えられた「作業」だと考え、もう1人はお金を稼ぐための「手段」だと考え、そしてもう1人はずっと先を見た「目的や目標」「夢や希望」「責任ややりがい」といったものとして捉えていたのだ。当然のことながら、先生は私たちに、3番目の答えを言えるような、仕事に大きな夢を持てる人材になってもらいたいと、言いたかったのだろう。

今の私はいったい何と答えることが出来るだろう。目の前にある仕事をこなすことが精一杯で、疲れて足が痛くなってくると、私は時計を何度も見た。あと一時間だ。これが終われば帰れる。今日のバイト分は4千円だ。そんなことばかり頭で考えていた。

ある日店長から「将来はどんな仕事につきたいと思っているのだい?」と質問された。
「人の役に立てる福祉の仕事です」私が答えると、
「それは立派な仕事だ。それで、ここでの仕事は、全く将来の役には立たないって思っているのかな?」私は返事に困った。きっと私はそんな顔をしていたのだろう。
「どんな仕事に就いても、1人でやるってことはないし、人の心を掴むことが成功の鍵だよ。ここでの仕事はきっと君の役に立つ日が来るさ」

店長の言っていることがよく理解できた。「そうだと思います。すみませんでした」怒られたわけではなかったが、素直な気持ちが口からこぼれた。「いや、新人を一人前にするのが僕の楽しみだよ」

その日に、新しいメニューの試食会があった。お腹がペコペコで一口食べたら、笑顔がこぼれた。すると先輩たちが、「こんなに美味しそうに食べているんだ。これを出したら人気メニューになるぞ」私は顔が真っ赤になった。

私はこの日に二つことを学んだ気がした。一つは仕事には、「人を使う立場の人」と「人に使われる立場の人」がいる事に気づいた。私は使われる自分の立場ばかり考えていたが、使う立場の人から言えば、その報酬に見合う仕事ができるようになるまで根気よく指導していかなくてはならないし、私が何か失敗すれば、みんなで責任をとらなければならない。私1人の態度でその場の雰囲気が変わってしまうし、何よりもチームワークを大切にして、私を気遣って声をかけてくれる先輩たちの温かさに触れた。

もう一つは、「好きで仕事をしている人」と「嫌々仕事をしている人」の差はとても大きいということだ。ここには色々な大学の学生がアルバイトに来ている。私と同じように将来就きたい仕事への夢や目標を内に秘めている。実際に夢が叶う人はほんのひと握りなのかもしれない。しかし、たとえ夢見た職業に就けなかったとしても、今はただお金のための作業や手段だったとしても、その中で与えられた仕事に真剣に向き合えば、やりがいや喜びが自然と生まれてくるはずだ。そう、今の私に無駄な経験なんて一つのないのだ。

「学生のころに夢見た仕事とは違うけれど」と苦笑いする店長の顔が、今の仕事へのやりがいや誇りに満ち溢れていて、とても眩しかった。

さぁ、今日も私の一番の笑顔でお客様をお迎えしよう!

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