【 佳 作 】

【テーマ:○○年後の自分に宛てた手紙】
学生の向こう側
愛知県立時習館高校1年 仲川 凜香 15歳

「高校合格おめでとう!」
私はこの春第一希望で難関校である地元の高校に入学した。周りの人たちから難関校に合格したことを祝福されるたびにこの高校に入学したことを誇りに思うようになった。入学したからには勉強を高校受験以上にしなければならない覚悟はできていたつもりだった。しかし入学後すぐにその考えの甘さと現実の厳しさに打ちのめされた。毎日の宿題は山ほど出るし、授業の進み方が半端なく速い。そのため予習、復習をしなければとてもじゃないがついてはいけない。風邪をひいて2〜3日休もうものなら置きざりにされてしまう。

入学後3か月も経たない内に落ちこぼれとなりつつあり最近ふと考えるようになったことがある。
「何のために勉強しているのだろう?」
中学まで優等生だった私には思いがけない疑問だった。もちろん答えは決まっている。
「良い大学、目標の大学に入学するためだ」
しかしその答えの先に次の疑問が立ち塞がる。
「良い大学、目標の大学に行くのはなぜだ?」
この疑問の答えももちろん決まっている。
「良い就職口を見つけるためだ」
またその答えの先に次の疑問が立ち塞がる。
「就職し働くことが最終目標なのだろうか?」そして「何の為に働くのだろう」「友だちや同年代の人たちはこのことに疑問を抱かないのだろうか」落ちこぼれれば、落ちこぼれるほど変な疑問ばかり浮かんできて勉強に身が入らずもっと落ちこぼれていく自分があった。

そんな時、父の知り合いが仕事を辞めたと聞いた。彼は私と違って有名な国立大を優秀な成績で卒業し世間の名が知られている大会社の社員として働き出して3年目になるところだった。彼はその会社を辞めることをご両親には全く話さずに自分一人で決め実行に移したために、ご両親はとても落胆したそうだ。

その彼が近くに用事があってうちに立ち寄った。せまい家なのでリビングでの2人の会話が手に取るようにわかる。彼が父に対して話した辞めた理由は次のようなことだった。

毎日決まった時間に出社して、上司から与えられたノルマの無い仕事を労働時間内に済ませ帰社する。一見羨ましい限りの理想の仕事に思えるかもしれないが、彼にとってはそれが苦痛で仕方なかったらしい。与えられた仕事以上のものを望んでも事なかれ主義の上司は取り合ってくれない。むしろ余裕のもてる仕事内容、仕事量に感謝しろと言われたらしい。結局彼は辞することを決意したのだ。

彼は幼い頃より成績優秀で、親に反発することなく親の言う通りに親の敷いてくれたレールの上を横道に反れることなく歩んできた。しかし就職して社会でのいろいろな事例にぶつかることで、人より時期の遅い自我が芽生えてきたのかもしれない。それが証拠に職を辞する時、親にはひと言の相談もなく辞めてしまったのだから。

私は彼が仕事を辞した理由が判るような気がする。私たちの親も含めてそれ以上年輩の世代は彼のような考え方を持つ若者に対して甘えだとひと言に集約してしまうが、私はそうは思わない。夢や希望のある若者が就職氷河期と言われている厳しい雇用状況に、就きたい仕事につけなかった、内定をもらった企業には大変失礼ではあるが仕方なく就職したという無念が心の奥底でくすぶっているのでそういうことになるのではないかと思う。

私は「勉強すること」「働くこと」の意味について考えている。それは簡単には答えが出ないのではないかとも思う。それらを疑問に思いつつも、私にも何らかの才能があり、希望なり理想なりの職業に就けるだろうと気楽に考えている自分もいる。グローバルな世の中になって、それは親の考える尺度で測れないことかもしれない。ただ、私が思うことは、どんな職業であれ自分が生きがいとして続けてゆける仕事に就きたいし、その仕事を誇りとして思える人間でいたい。

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