【 努 力 賞 】

【テーマ:非正規雇用者として】
転職から非正規雇用者になり感じたこと
新潟県 清水 みつお 47歳

私は42歳のときに転職をした。名ばかり管理職、長時間のサービス残業、度重なるパワハラなど、不景気に比例するかのように労働環境は悪くなる一方の職場だった。育ち盛りの子供2人と妻がいる身で退職という決断は、性急で愚かな判断だったと思う。しかし、当時は心身ともに疲れていて、とにかくそこから逃げたかった。

ハローワークに通い、職を求めたがなかなか見つからない。求人数は多いが、条件が合わない。「何とかなる」と思っていた安易な予想は、厳しい現実に打ち砕かれ、先行きが見えず不安ばかりが募った。

雇用保険もいよいよ最後の支給月になったある朝、新聞の折り込みチラシに、スーパーマーケットの求人広告が入っていた。『契約社員募集 夜間勤務者1名』とあった。もはや夜の仕事、昼の仕事と気にしている場合ではなかった。給与などの条件も悪くない、資格はいらないようだし、「40代50代が活躍しています」と、うれしくなるような文言もあったので、早速応募した。

入社試験には7人の応募者がいた。倍率7倍、不景気を肌で感じた。1日目は適性検査、筆記試験。何とか合格して面接へ臨んだ。面接で最後に聞かれた「何か言っておきたいことはありますか」との問いに、「御社での仕事を私の生涯の仕事にしたいです」と決意を表した。それが合否を左右したかどうかは分からないが、幸いなことに採用された。40代で0からのスタート。決意と不安とが入り混じっての出発だった。

契約社員というのは正社員ではない。いわゆる、非正規雇用者である。新聞や雑誌でよく見かける言葉だったが、今まさに自分がその非正規雇用者になった。正社員と何が違うのか。私の場合は、昇給なし、賞与なし、昇格なし、退職金なし、契約は1年ごとに更新で、その際、双方いずれかの都合により契約を更新しない場合もある。こんな感じである。ないない尽くしで、夢も希望もないような言葉が並び、「嫌なら辞めてください。会社の都合によってはいつでも辞めて頂きます」。とも読める内容だった。しかし、私はそうは思わなかった。面接時にそのことはきちんと聞いて納得していた。むしろ「背水の陣の気持ちを、働く限り持ち続けよう」と、自分に都合よく解釈し、モチベーションにした。

現在、入社から5年目を迎えた。正社員だったころと比べて収入は減った。妻との共稼ぎで家計をやりくりしている。しかし、それ以外悪くなったことはない。以前の仕事は、家には眠るためだけに帰るようなものだった。妻が言う、「あのころよりも今の方が楽しい」「あなたが生き生きしているのがうれしい」自分でも心が落ち着いて穏やかになったのが分かる。夜の勤務なので、子供の学校行事にも参加できるようになった。娘が小学校5年生のとき、授業参観に初めて行った。チラチラと振り返る娘がほほ笑ましかった。

働くということはお金を稼ぐことであり、生活費や子供への教育、老後のことを考えると、収入が多いほうが良い。そう考えると、正規雇用者と非正規雇用者との生涯賃金の差はかなり大きい、一説には、両者の生涯賃金の差は1億5千万円あると聞いた。だから、これから社会に出る若者たちには、正規雇用者として働く道を選ぶことをお勧めする。

今年、長男が成人した。専門学校を来春卒業予定である。就職活動に取り組み、先般内定を頂いた。無事に過ごせば、桜のつぼみが膨らむころ正社員として社会人の仲間入りをする。

私は、40代半ばで非正規雇用者になった。幸運なことに、私にとっては待遇に恵まれ、仕事内容にも恵まれた。しかし、息子には正社員として働いてもらいたい。それが本音である。ただし、額に汗を流し、一生懸命働くことが大切であることは、正規雇用者も非正規雇用者も同じである。そのことだけは忘れない。

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