【 佳 作 】

【テーマ:仕事から学んだこと】
仕事から学んだこと
京都府 オリーブ

「ちょっと書く物を取ってくれないか」学校を卒業して就職し、社会人としてはまだ半人前の半人前ぐらいの頃でした。上司からそう言われた私は「はい、わかりました」と元気よく鉛筆を1本手渡しました。「えーっと」と上司は一瞬戸惑いながら苦笑いされました。すると傍にいた先輩がさり気なくメモ用紙を手渡されました。そうです。書く物と言われて、鉛筆だけ渡してもメモが無いと書けないのです。自分の席から離れた資料集の前で上司は何かを控えようとされていたのです。その相手の様子を見ることなく、自分の思い込みのまま行動した私の恥ずかしい思い出です。

相手の立場で考えてみる−簡単なようで難しいこの事を身につける上で、仕事は日々、実践させてくれます。逆にこれができないと仕事がスムーズに捗らないこともあります。学生の頃は自分の気の合った友だちと好きな事をして冗談を言い、時にはケンカをしながらもそれで許されていました。でも働くということは、それに対するお金をもらうのですから相手や周囲の役に立つように振舞わなくてはいけないのだなと思います。

それからは先輩の動きをよく見るようになりました。電話のかけ方、取り方、仕事の頼み方、頼まれ方……全てがお手本になりました。そして先輩が忙しそうにされていたら自分から「何かお手伝いできることはありますか?」と聞きながら仕事の段取りの仕方も少しずつ身につけていきました。「すごいですね」と先輩のてきぱきとした様子に思わず感心して言うと「そんなことはないよ。いつもどうやったらもっと効率良くできるか考えているし、私より仕事のできる人はいっぱいいるから」と先輩は返されます。その言葉でまた感心するのです。本当にできる人は常に向上心を持ち、謙虚だと気づきました。そして私も働き続ける中で少しでも先輩に近づく仕事ぶりを身につけたいと思いました。

あれから随分と年月が経ちましたが私は今でも働くってなんだろうと考える時にはそこが原点になっています。人の役に立つこと。対価を得るからには相手の要求や状況を見て動き、できるだけ納得や満足が得られるようにすること。そうすることが結局は自分も相手も気持ちが良い働き方ができるということ。そんなことを仕事をする中で学びました。

若い頃は理不尽なことがあるとすぐに怒ったり落ち込んだりしていました。そのたびに親や周囲から「大丈夫。ちゃんと見ている人はいるから。口に出さなくてもあなたが正しい、ちゃんとやっていると思っている人は周りに必ずいる」と言われました。今、自分があの時の先輩の立場になって改めてその言葉の通りだと思います。その場限りでうまくやる人は長続きせず信頼が得られません。仕事の評価も下がっていきます。だから愚直でもコツコツと積み重ねる大切さも学んだと思います。

「先輩は何でもできますね」と言いながら自分の不出来を嘆いたこともありました。しかし、ある時先輩から「私の声はぼそぼそと聞こえて、あまり通らないの。あなたの声は透き通るような声で遠くまでよく聞こえるからうらやましいわ」と言われました。「一緒に働いていて、いつもいいなって思ってた」と言われ、驚きました。

鉛筆だけでは役に立たないこともあります。紙だけでも出来ないこともあります。鉛筆と紙の二つがあって一つの仕事が出来ることもあります。そう考えると働くということは、それぞれが持ち前の分野をしっかりこなし、互いに補い合って人や社会の役に立つように動くことなのだなと思います。わがままや一人よがりであっては前に進まないことも経験しました。人の動きをよく見て動くというのは一般社会にも通じることだと思います。近くの人を少し気にかけて思いやってみることで流れがよくなります。仕事は生きていく上でも大切なことを気づかせてくれました。

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