【努力賞】
【テーマ:仕事とお金】
仕事とお金
東京都 豊島区  岡田 絵美子 74歳

店子の1人が家賃を1ヶ月待ってくれまいかと言って来た。バイト先の居酒屋が夜逃げしてしまい、約束の期日に18万の給料が振り込まれなかったのだと。可哀想に。今月末に支払われる分は毎月、少しずつ払ってもらうことにして、来月からは新しいバイトを見つけて、きちんと払うという条件をつけた。ギタリスト志望で、路上パフォーマンスやら場所を借りてライブを開いたりしながら、電気屋やら、ペイの良いところを見つけてはバイトで頑張ってきた。今迄は常にきちんと支払い、2年間こんなことはなかった。居酒屋は恐らく酒屋や、その他の仕入先や、家賃のツケが溜まり、従業員の給料も払わずに居なくなってしまったのだ。

最近の1Kマンションは、外見は立派なオートロック式だが、6畳くらいの洋間に形ばかりのキッチンの付いた造りで、1ヶ月でも家賃が遅れれば管理している不動産屋にテレビなど家具は全部差し押さえられてしまう。その点、貸家は築25年のボロアパートで、大家と言えば親も同然と考える昔気質の大家だ。慰めてやりたくて、手料理を御馳走してやったら、「行ってもいいですか」と毎日来る。金があれば、ギャルとハンバーガーでも食べに行けるのに、文無しだから口うるさい母親みたいな大家の所しか行ける場所もない。ハローワークへ行ってみたり、インターネットで探したりで、建設作業の派遣の職にありついた。1日7千円になるとかで、居酒屋よりはペイが良いと喜々としていたが、健康診断してくれと言われ、近くの病院へ行ったら、2万円請求されたと。その上、作業服、交通費は自己負担だと。そんな話は事前に聞いてなかったと。最近の若者は年金の掛金を払わないと。掛けたって将来、年金が貰えるか不安だ。バイト先に夜逃げされたりすれば、働いても年金の掛金は払えない。中高年はリストラされ、一部の若者にのみこの国の期待はかかっている。それにしてもボロアパートの家賃は安く、税金とリフォームとで赤字に近い。年金は、まともに貰っても生活保護の半分だ。フランスでは年金で生活できるそうだが、日本では年金では生活できない。若者が年金を掛けなくなり、いや掛けられなくなれば、年金もやがて減るのだ。赤字のボロアパートでも固定資産税はかかる。後期高齢者の健康保険料は介護保険料同様、半端じゃない額で、年金から差引けやしない。

貧しい若者と貧しい大家が寄りそって暮らしている。働いてもその給料が貰えない若者と70過ぎまで働き続けて年金を掛け続けてきた大家が生活保護の人達を羨んでいる。ボロアパートを売り飛ばして不幸な若者と少しは楽しく暮らそうかと思ったりしたが、アパートを売ったりすれば、あらかた税金で、残りの余生なんか送れやしないと、識者におどかされて、やっぱり若者と2人で生活保護の人を羨んでいる。建設作業の仕事だってはたしてきちんと支払われるか不安だ。

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