【努力賞】
【テーマ:仕事とお金】
シングル介護者の願い
長野県 東筑摩郡  飯森 美代子 48歳

私は33歳のとき仕事を辞め、脳梗塞で左半身まひになった母のシングル介護を15年続けている。シングル介護とは未婚・非婚の子どもが親を介護することを言う。仕事を辞めるまで私は、ミニコミ紙の記者をしていた。2回の転職の末ようやく夢をつかみ、一生の仕事にしようと懸命に取り組んでいた。しかし、ハードな仕事のため介護との両立は難しく、悩んだ末に離職した。平成9年のことで、国の介護保険制度はまだスタートしておらず、会社には介護休業制度もなかった。

離職してからも再就職を考えなかったわけではない。ハローワークに通い始めたものの、母の度重なる入院であきらめた。現在91歳の母は、脳梗塞の後遺症のほかに胆のうに結石があり、頻繁に急性胆のう炎を発症し入退院を繰り返している。肝硬変も患っているため、胆のうを切除する根本治療が出来ず、対症療法しかない。発作が起きるたびに入院し、入院すれば付き添いが必要になる。就職してしまえば長期休暇を取ることは難しい。その前に面接の時、事情を話せば採用にならないだろうと断念した。二人の暮しを支えているのは、母の年金だ。しかし、それだけでは足りず、少ない貯金を取り崩して何とか生活している。

以前新聞に、50代の独身男性が母親の介護のために会社を退職。母親が亡くなった後、ハローワークに通ったものの、年齢や経験、資格を理由に門前払いが続き、ついに貯金が底をつき、生活保護を受けたという記事が載っていた。とても他人事とは思えない。未来の私の姿とダブって見える。

私も今のうちから職業訓練を受け、少しでも就職に有利な資格を取ろうと思い立った。しかし、介護をしていると長時間家を空けることは難しい。そこで、短時間か在宅で出来る訓練はないだろうかと、ハローワークに問い合わせた。けれど公的な訓練は、1日6時間の通学コースしかなかった。民間の通信教育は費用がかかり、受講は厳しい。

落胆していたとき、テレワークという働き方を知った。時間や場所にとらわれず、技術を習得すれば家に居たままパソコン一つで仕事が出来ると紹介していた。これなら出来るだろうとインターネットで調べたもののよく分からず、県やハローワークに訊いたが、テレワークに必要なスキルを身に付けるIT訓練は実施していないと言われた。様々なIT機器の普及によって、これまでは私のように仕事をあきらめざるを得なかった人でも、テレワークという働き方が出来る可能性が出てきた。ところが、現実には訓練を受ける手立てがないのだ。

無職のシングル介護者にとって、働きたくても働けない現実や親の年金に頼らざるを得ない生活は、精神的に追い詰められていく。長い間、仕事から遠ざかっていると、再び社会で通用するのか、今後働く場を得られるのか不安になる。

職業訓練を短時間もしくは在宅で受けられるシステムを、公的機関で作ることは出来ないだろうか。さらにハローワークにテレワーク専門の部署を設けられないだろうか。テレワークの人材を求める企業と仕事を探している人のコーディネートをして欲しいのだ。実現出来れば社会と繋がることができ、収入を得られることで少しは生活に希望が持てるはずだ。

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